「日帰り手術」という言葉は一般的になりました。患者さんにとっては、入院による生活の変化を最小限に抑えられ、早期の社会復帰が可能になるというメリットがあります。そして、医療機関にとっては、入院ベッドを必要としない分、より多くの患者さんを受け入れることができ、収益向上につながる可能性があります。今回は、クリニックの収益力向上に繋がる「短期滞在手術等基本料1」について、特に眼科・消化器科の先生方に向けて詳しく解説します。短期滞在手術等基本料とは?短期滞在手術等基本料とは、入院を必要としない手術や検査などを、一定の施設基準を満たした医療機関で行った場合に算定できる診療報酬です。この基本料を算定することで、クリニックの収益向上を図ることができます。今回は、短期滞在手術等基本料1と3がありますが(2がないのは廃止になったため)、無床診療所向けに「短期滞在手術等基本料1」について掘り下げて解説していきます。短期滞在手術等基本料1の点数と算定要件短期滞在手術等基本料1は、手術の内容や麻酔の有無によって点数が異なります。点数イ. 主として入院で実施されている手術を行った場合 (1) 麻酔を伴う手術を行った場合:2,947点 (2) (1)以外の場合:2,718点ロ. イ以外の場合 (1) 麻酔を伴う手術を行った場合:1,588点 (2) (1)以外の場合:1,359点ここでいう麻酔とは硬膜外麻酔・脊椎麻酔・マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔のことをいい、イ. 主として入院で実施されている手術とは短期滞在手術の中でも入院が必要とされる手術になりますので、無床診療所はロの(2)の1,359点を算定することになります。ロの(2)は主に大腸のポリープ切除(ポリペク)や白内障の手術(一般的な眼内レンズ挿入)・痔核手術(脱肛を含む。)の痔核硬化療法(ALTA療法)など(下表の赤字の手術)が該当します。こちらからPDFをダウンロードできます。算定要件短期滞在手術等基本料1を算定するためには、以下の要件を満たす必要があります。手術室の使用:手術室(内視鏡を用いた手術の場合は内視鏡室も可)を使用していること。事前説明と同意:術前に十分な説明を行い、同意書を用いて患者さんの同意を得ること。術後フォローアップ:日帰り手術翌日に患者さんの状態を確認するなど、十分なフォローアップを行うこと。患者の居住地:日帰り手術後、概ね3日間は、患者さんが1時間以内で当該医療機関に来院可能な距離にいること。検査等包括:基本料には、一部の検査や麻酔管理料などが含まれる(詳細は後述)。これらの要件を満たすことで、短期滞在手術等基本料1を算定することが可能になります。短期滞在手術等基本料1に含まれる検査等短期滞在手術等基本料1には、以下の検査や麻酔管理料が含まれます。これらの検査を別途算定することはできませんのでご注意ください。尿中一般物質定性半定量検査血液形態・機能検査(末梢血液像、末梢血液一般検査)出血・凝固検査(出血時間、PT、APTT)血液化学検査(総ビリルビン、総蛋白、アルブミン、尿素窒素、クレアチニン、尿酸など)感染症免疫学的検査(梅毒血清反応、ASO、HIV-1抗体など)肝炎ウイルス関連検査(HBs抗原、HCV抗体)血漿蛋白免疫学的検査(CRP)心電図検査写真診断撮影麻酔管理料(Ⅰ)・(Ⅱ)上記のいわゆる術前スクリーニング検査は包括されてしまうため、注意が必要です。これらの点数(麻酔管理料は上記の脊椎麻酔や全身麻酔の場合に算定するため除きます)と短期滞在手術等基本料1の1,359点を比べるとスクリーニング検査以外の特別な感染症の検査を実施しない限り短期滞在手術等基本料1の方が点数は多少高くなります。施設基準短期滞在手術等基本料を算定するためには、以下の施設基準を満たして届出をする必要があります。回復室の確保:手術後の患者さんの回復のために適切な専用の回復室が確保されていること(必ずしも許可病床である必要はありません)。看護師の配置:看護師が常時患者さん4人に1人の割合で回復室に勤務していること。24時間緊急対応:退院後概ね3日間の患者さんに対して、24時間緊急対応が可能な状態であること。または、提携している医療機関で24時間緊急対応が可能な状態であること。麻酔科医の勤務:全身麻酔を伴う手術を行う日には、麻酔科医が勤務していること。事前説明と同意:術前に患者に十分に説明し、「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」における別紙様式8を参考として同意を得ること。開業・経営におけるポイント手術室と回復室の設置:算定にあたっては、手術室と回復室の設置が必要です。面積に関する要件はありません。診療実績:新規医療機関の場合、短期滞在手術等基本料1を算定するには、1ヶ月の診療実績が必要です。なぜ1ヶ月の診療実績が必要かはまた改めてお話します。開業してすぐに算定することができませんので注意が必要です。厚生局への確認:厚生局によって解釈が異なる場合があります。算定前に必ず厚生局に確認しましょう。まとめ短期滞在手術等基本料の該当手術は、厚生労働省も外来への移行を進めたい思惑があり、入院させても回転率が早いにも関わらず、個々に入院計画を立てたり書類を作成する必要があり、収益に繋がりにくくなっています。また医療機関の人手不足もあり外来で実施することも難しい病院が増えています。短期滞在手術基本料1を届出できるような体制を整えておけば、病院からの紹介などにより集患にも繋がります。本記事を参考に、ご自身のクリニックでの導入を検討してみてはいかがでしょうか。詳細な施設基準などはこちらまでお問い合わせください。