「混合診療」という言葉は聞いたことがある方も多いかもしれませんが、そのルールは複雑で、医療関係者でさえ誤った解釈をしてしまうことがあります。日本の医療制度は、すべての患者さんが安心して医療を受けられるよう、いくつかの大切なルールに基づいています。今回は、日々の診療で特に重要な「混合診療」と「診察料の二重請求」について、そのポイントを分かりやすく解説します。1. そもそも「混合診療」って何?混合診療とは、一連の病気の治療において、保険が適用される「保険診療」と、適用されない「自由診療」を併用することを指します。保険診療とは?健康保険が適用される一般的な治療です。医療費の自己負担は1割から3割です。自由診療とは?健康保険が適用されない治療で、費用は全額自己負担となります。美容整形や、国内で未承認の医薬品・医療機器を用いた治療などがこれにあたります。原則として、混合診療は禁止されています!日本の医療制度では、一連の病気に対して保険診療と自由診療を併用した場合、その日の診療費全体が自由診療(全額自己負担)として扱われるのが原則です。【なぜ禁止なの?】患者さんの経済状況によって受けられる医療に格差が生まれるのを防ぐため。有効性や安全性がまだ国に承認されていない医療が、安易に広まるのを防ぐため。2. 混合診療の「例外」とは?(保険外併用療養費制度)原則禁止の混合診療ですが、例外的に保険診療との併用が認められているケースがあります。これを「保険外併用療養費制度」と呼びます。この制度では、基礎的な診療部分(診察、検査、投薬など)は保険診療となり、特別な部分のみが自己負担となります。【保険外併用療養費の例】先進医療: 将来的に保険適用が期待される先進的な医療技術。患者申出療養: 患者さんの希望により、国内未承認の医薬品などを専門家の会議で認められた上で使用する制度。選定療養: 患者さん自身が選択する、より快適な医療サービスなど。差額ベッド代: 個室などの特別な療養環境を選ぶ場合。予約診療: 予約に基づく診療で、特別な料金が設定されている場合。時間外診療: 標榜時間外の診療を希望した場合。 など「療養の給付と直接関係ないサービス等」3. これは混合診療にならない!知っておきたいケース以下のような場合は、混合診療にはあたりません。ケース① 異なる病気を同日に治療する場合同じ日に、異なる病気に対して保険診療と自由診療をそれぞれ行うことは可能です。例: 皮膚科で湿疹の治療(保険診療)と、美容目的の点滴(自由診療)を同日に行う。この場合、混合診療にはなりませんが、診察料の扱いに注意が必要です(詳しくは次の「4. 診察料の二重請求」で解説します)。ケース② 療養そのものではないサービス病気の治療とは直接関係のないサービスは、保険診療と組み合わせて提供できます。これらは「療養の給付と直接関係ないサービス」とされています。例: おむつ代、診断書などの文書作成料、インフルエンザなどの任意予防接種、ドクターズコスメの購入費など。ただし、これらの費用を徴収する際は、①院内掲示などで料金を明示し、②患者さんへ説明し同意を得て、③保険診療分とは別の領収書を発行する必要があります。4. 絶対NG!「診察料の二重請求」に要注意診察料の二重請求とは、同じ日の診療に対して、保険診療と自由診療の両方から初診料や再診料などを徴収することです。これは厳しく禁止されています。特に注意すべきケース:健康診断や予防接種と同日の保険診療健康診断や(自費の)予防接種は自由診療です。これらの目的で来院した日に、別の病気が見つかり保険診療を行ったとしても、原則として保険診療分の初診料・再診料は請求できません。これは、診察という行為は健康診断や予防接種の費用にすでに含まれている、と解釈されるためです。【カルテ・レセプトの対応】この場合、保険診療と自由診療のカルテを分け、保険診療のレセプト(診療報酬明細書)には「初診料(再診料)は健診(予防接種)にて算定済み」のようにコメントを記載し、診察料を請求しないようにします。「誤解」から学ぶ具体例誤解①:別々のことなら何でもOK?OKな例: ニキビ治療(保険診療)と、医療脱毛(自由診療)を同日に行うこと自体は混合診療にはあたりません。これらは「一連の病気の治療」ではないからです。誤解②:診察料の考え方上記の例で、もし医療脱毛の料金に診察料が含まれている場合や、別途自由診療としての診察料を徴収している場合、同日に行うニキビ治療で保険診療の初診料・再診料を請求すると「二重請求」にあたります。お子さんの定期予防接種(公費負担)の日に、風邪などで保険診療も受けた場合も同様に、保険診療分の診察料は請求できません。このように、請求ルールが複雑になるため、医療機関によっては同日の保険診療と自由診療(予防接種などを含む)を別日にお願いするケースがあるのです。混合診療と診察料の二重請求のルールは、一見すると複雑ですが、基本的な考え方は「一連の治療かどうか」と「診察行為が重複していないか」です。この2つのポイントを正しく理解し、適切な医療提供と請求を心がけましょう。