2025/8/7

お知らせ

病院やクリニック における変形労働時間制の上手な活用法

「月初はレセプト業務で残業が増えてしまう…」

「曜日によって患者数に波があり、スタッフの勤務時間に偏りが出てしまう」

「夜勤明けの職員の負担を、なんとか軽減できないだろうか?」

クリニックや病院の労務管理において、このようなお悩みをお持ちではないでしょうか。

特に、入院病棟を持つ病院や救急対応を行うクリニック など、24時間 体制で患者さんの命と健康を守る医療機関では、日や週によって業務の繁閑差が大きく、勤務形態も複雑になりがちです。

こうした医療機関特有の働き方に柔軟に対応し、職員の負担を軽減しながら、残業時間を賢く管理できる制度が「変形労働時間制」です。

今回はその中でも、多くの医療機関で導入しやすい「1ヶ月単位の変形労働時間制」に焦点を当て、メリットや導入のポイントを分かりやすく解説します。

そもそも「変形労働時間制」とは?

まず基本として、労働時間は法律で「1日8時間・週40時間」までと定められています。これを超えて勤務した場合は、時間外労働(残業)となり、割増賃金の支払いが必要です。

しかし、医療現場のように、常に業務量が一定とは限らない業種もあります。そこで活用できるのが「変形労働時間制」です。

これは、一定期間(例えば1ヶ月)を平均して、週の労働時間が法定労働時間(週40時間)に収まっていれば、特定の日や週に法定労働時間を超えて勤務させても、時間外労働として扱わなくてよい、という柔軟な制度です。

変形労働時間制には、期間の長さなどによって下記のとおり種類があり、

・1ヵ月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2)

・1 年単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の4)

・1週間単位の非定型敵変形労働時間制(労働基準法第32条の5)

・フレックスタイム制(労働基準法第32条の3)

それぞれで要件やルールが異なります。主な制度の違いを下の表にまとめました。

変形労働時間の種類

事業規模

定め

1週間当たりの労働時間

限度時間等

1ヶ月単位

-

労使協定(届出必要) or就業規則等

40時間以下 or44時間以下(※特例事業)

無し

1年単位

-

労使協定(届出必要)

40時間以下

1日の労働時間の限度
10時間
1週間の労働時間の限度
52時間(対象期間が3箇月超えの場合)
1年あたり労働日数の限度
280日

フレックスタイム

-

就業規則等 and労使協定(届出不要)

40時間以下 or44時間以下(※特例事業)

清算期間(1箇月~3箇月)<清算期間における総労働時間の総枠超えが残業時間

1週間単位の非定型的

小売業、旅館、料理店、飲食店(常時30人未満)

労使協定(届出必要)

40時間以下

1日の労働時間の限度
10時間

このように様々な種類がありますが、今回は月ごとのシフト作成が基本となる医療機関にとって、最も馴染みやすく活用しやすい「1箇月変形労働時間制」を詳しく見ていきましょう。

「1ヶ月単位の変形労働時間制」医療現場での活用メリットと具体例

この制度を導入すると、1ヶ月単位で労働時間の調整が可能になります。具体的にどのようなメリットがあるのか、活用シーン別に見てみましょう。

【活用シーン①:クリニック の場合】

<課題>

週明けの月曜日や、休診日の前後は患者さんが集中して忙しい。一方で、週の半ばは比較的落ち着いている。日によって業務量に大きな差がある。

<活用法>

例えば、以下のように所定労働時間を設定します。

  • 忙しい月曜日:所定労働時間 10時間

  • 比較的落ち着いている水曜日:所定労働時間 6時間

このように、業務の繁閑に合わせて日々の労働時間にメリハリをつけることで、月全体の労働時間を法定の枠内に収めやすくなります。結果として、月全体の残業時間を抑制し、人件費の適正化に繋がる可能性があります。

【活用シーン②:病院(病棟24時間 体制)の場合】

<課題>

日勤・準夜勤・深夜勤といった複雑なシフトを組む必要があり、特に二交代制を採用している場合「16時間夜勤(2日分をまとめて勤務)」などの長時間勤務が存在する。

<活用法>

1ヶ月単位で労働時間を調整することで、こうした長時間夜勤を含むシフトでも、法定労働時間の枠内に収めやすくなります。

例えば、16時間の夜勤を行った週は、他の日の勤務時間を短くしたり、休日を多く設定したりすることで、1ヶ月を平均して週40時間以内に調整します。これにより、法律を遵守しながら、職員の適切な休息を確保し、心身の負担軽減と安定した医療提供体制の維持に繋がります。

導入前に必ずチェック!注意点と導入ステップ

非常に便利な制度ですが、導入にあたっては正しい手順と運用が不可欠です。

導入の必須要件

まず、以下の2点のどちらかが必ず必要になります。

  1. 就業規則への規定: 「1ヶ月単位の変形労働時間制を採用する」旨を就業規則に明記します。

  2. 労使協定の締結: 労働者の代表と書面で協定を結びます。(対象となる労働者の範囲、対象期間、労働時間、有効期間などを定めます)

運用上の重要ポイント

  • シフトの事前明示義務
    対象期間(1ヶ月)が始まる前に、各日の始業・終業時刻を記載した勤務シフト表を作成し、全職員に周知する必要があります。一度周知したシフトは、原則として一方的に変更できません。

  • 残業時間の考え方
    残業時間のカウント方法が通常と少し異なります。以下のケースで時間外労働となります。

  1. 1日単位: シフトで定めた所定労働時間を超えて勤務した場合(例:8時間勤務の日に9時間働いた場合、1時間が残業)

  2. 1週単位: シフトで定めた週の所定労働時間を超えて勤務した場合(ただし、1でカウントした時間を除く)

  3. 1ヶ月単位: 1ヶ月の労働時間の「総枠」を超えて勤務した場合(ただし、1、2でカウントした時間を除く)。この総枠は、以下の計算式で求めます。

週の法定労働時間(40時間) × (その月の日数 ÷ 7日)

  • 月の日数が31日の場合: 40時間 × (31日 ÷ 7日) = 177.1時間

  • 月の日数が30日の場合: 40時間 × (30日 ÷ 7日) = 171.4時間

この計算で出た時間を超えた分が、月単位での残業となります。

  • 配慮が必要な職員
    妊産婦や、育児・介護を行う職員から請求があった場合は、法定労働時間を超える勤務をさせることはできません。個別の事情に配慮したシフト作成が求められます。

まとめ:適切な運用で、職員も医療機関もWin-Winの関係を

「1ヶ月単位の変形労働時間制」は、医療機関が抱える特有の労働時間管理の課題を解決し、より柔軟な働き方を実現するための有効な手段です。

業務の繁閑に応じた効率的な人員配置は、残業代の抑制に繋がります。また、職員にとっても、業務負担の平準化や休息の確保がしやすくなり、ワークライフバランスの向上に繋がるでしょう。

ただし、導入には就業規則の整備など、その効果を最大限に引き出すためには、制度を正しく理解し、職員への丁寧な説明と、日々の適切な勤怠管理が成功の鍵となります。

もし導入や運用に不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談し、自院に合った最適な形を検討してみてはいかがでしょうか。