土曜日や日曜日に診察を行っているクリニックも多いと思いますが、世間が休日の間に診察を行うことで、平日は忙しくて病院に行けない方々にとって大変助かります。こういったクリニックには、診療報酬制度上のインセンティブがあるのをご存知でしたか?特に「夜間・早朝等加算」と「時間外加算」は、名前は似ていますが全く異なるものです。これらのポイントを理解して、すっきり整理しましょう!(文中の診療報酬点数は令和6年度改定時の点数になります。)1. 夜間・早朝等加算とは制度の目的: 地域のクリニックが夜間や早朝に診療を行うことを経済的に支援し、大病院の救急外来への患者集中を緩和することを目的とした制度です。対象医療機関: 診療所(クリニック)に限定されており、病院は算定できません。算定点数: 初診・再診の区別なく、一律で50点を加算します。算定の絶対条件: 算定できるのは、クリニックが院内に掲示している診療時間内(標榜時間内)に受付が行われた診察に限られます。対象となる時間帯:平日: 午前6時~午前8時、および午後6時~午後10時。土曜日: 午前6時~午前8時、および正午(昼12時)~午後10時。算定できない時間帯: 深夜(午後10時~翌朝6時)や休日(日曜・祝日)は、それぞれ深夜加算・休日加算の対象となるため、夜間・早朝等加算は算定できません。2. 夜間・早朝等加算の施設基準と届出施設基準:原則として、1週間の標榜診療時間の合計が30時間以上である必要があります。地域の輪番制救急医療などに協力している場合は、基準が週27時間以上に緩和されます。届出の要否:地方厚生局への事前の届出は不要です。届出が不要であるため、施設基準(週30時間以上など)を満たしているかどうかの管理責任は完全に医療機関側にあります。診療時間の変更などで基準を満たさなくなったことに気づかず算定を続けると、個別指導や監査で返還を求められるリスクがあるため、定期的な自己点検が不可欠です。3. 時間外等加算(時間外加算・深夜加算・休日加算)とは共通の定義: クリニックが定めた標榜診療時間「外」に、緊急ややむを得ない理由で患者を診察した場合に算定できる加算の総称です。夜間・早朝等加算との根本的な違い:夜間・早朝等加算: 標榜時間「内」の診察が対象です。時間外等加算: 標榜時間「外」の診察が対象です。各加算の趣旨:時間外加算: 標榜時間外の緊急対応を評価します。休日加算: 日曜・祝日など、休日の診療を評価します。深夜加算: 医療体制が手薄になる深夜帯(22時~翌6時)の診療を評価します。4. 時間外加算・深夜加算・休日加算の点数時間外加算:初診: 85点(6歳未満は200点)再診: 65点(6歳未満は135点)休日加算:初診: 250点(6歳未満は365点)再診: 190点(6歳未満は260点)深夜加算:初診: 480点(6歳未満は695点)再診: 420点(6歳未満は590点)5. 時間外加算・深夜加算・休日加算のポイント最重要ポイント: これら3つの加算は、すべて標榜診療時間「外」の対応が前提となります。対象医療機関: 夜間・早朝等加算とは異なり、病院・診療所の両方が算定可能です。6歳未満の乳幼児への特例: 夜間・早朝等加算(一律50点)と違い、時間外・休日・深夜加算は6歳未満の患者に対して点数が大幅に高く設定されている点に注意が必要です。対象時間の整理:休日: 日曜・国民の祝日(深夜帯を除く)。深夜: 午後10時から翌朝午前6時まで。時間外: 上記の休日・深夜を除いた、標榜時間外の時間帯。6. 院内掲示と患者様へのご案内院内掲示・ホームページ掲載義務: 夜間・早朝等加算および時間外等加算は施設基準上の院内掲示・ホームページ掲載義務はありませんが、疑義解釈には ”受付の時間によって夜間・早朝等加算を算定する患者と算定しない患者が混在する可能性があることから、その旨診療所内の患者が分かりやすい場所に掲示されていることが望ましい。”とされています。また、通常の平日の診察と患者さんの負担金額が多くなるため、いつもより高いんだけど…みたいな問い合わせが多くなることが予想されるため、院内掲示やウェブサイトで夜間・早朝等加算について事前に告知しておくことが望ましい対応です。掲示例:ただ料金を知らせるだけでなく、制度の趣旨(利便性の提供や医療体制への貢献)を伝えることで、患者さんの納得感を得やすくなります。(推奨文例)厚生労働省の規定に基づき、下記の時間帯に受付をされた患者様につきましては、診療費に「夜間・早朝等加算(50点)」が加算されます。平日: 午前6時~8時、午後6時~10時。土曜: 午前6時~8時、正午~午後10時。当院では、お仕事帰りなどにも受診しやすいよう診療時間を設定しております。この加算は、夜間・早朝の診療体制を維持し、地域の皆様の利便性向上と救急病院の負担軽減に貢献するためのものです。何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。患者様からの質問への応対:会計時に質問を受けた際にスタッフが丁寧に対応できるよう、応対スクリプトを用意しておくと安心です。(応対例): 「はい、そちらは国の制度で定められている料金でして、平日の夕方6時以降や早朝の時間帯に受診された場合に加算されるものです。当院では、皆様が日中お忙しい時間帯を避けてご来院いただけるよう、夜間も診療を行っておりますが、その時間帯の診療体制を支えるための費用としてご理解いただけますと幸いです。」。7. まとめ加算選択の分かれ道: 「夜間・早朝等加算」と「時間外・休日・深夜加算」のどちらを算定するかの判断基準は、その診察が標榜診療時間の「内」か「外」か、この一点に尽きます。夜間・早朝等加算の要点:標榜時間「内」の診察が対象。診療所のみ算定可能。施設基準(週30時間以上など)を満たす必要あり。届出不要だが、自己管理が重要。時間外等加算の要点:標榜時間「外」の診察が対象。病院・診療所ともに算定可能。6歳未満の乳幼児は点数が大幅にアップする。制度理解の重要性: これらの加算制度を正しく理解し運用することは、適正な保険請求はもちろん、地域の医療提供体制の維持と病院勤務医の負担軽減に貢献するという、制度本来の目的を達成するために不可欠です。