2025/12/2

お知らせ

【2026年度改定】在支診・在支病の要件に「BCP(事業継続計画)策定」が義務化へ?「24時間対応」を守るための備えとは

2024年11月1日、厚生労働省は中央社会保険医療協議会(中医協)において、在宅医療に関わる医療機関にとって非常に重要な提案を行いました。

それは、「在宅療養支援診療所(在支診)」と「在宅療養支援病院(在支病)」の施設基準として、「BCP(事業継続計画)の策定」を追加し、義務化を検討するというものです。

導入の目処とされているのは、次回の診療報酬改定が行われる2026年度(令和8年度)。

「BCP?聞いたことはあるけれどまだ着手していない」「防災訓練とは違うの?」

そのような疑問をお持ちの医療従事者の方に向けて、今回のニュースの詳細と、そもそもBCPとは何か、そして現場はどう対応すべきかについて解説します。

1. そもそも「BCP」とは?防災計画との違い

まず、基本となる用語の整理から始めましょう。

BCP(事業継続計画)とは

BCPとは Business Continuity Plan の略称で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれます。

自然災害(地震、水害)や感染症のパンデミック、システム障害などの緊急事態が発生した際に、以下の3つを実現するためにあらかじめ定めておく計画のことです。

  1. 損害を最小限に抑える

  2. 重要な医療業務を中断させない

  3. 中断しても、可能な限り短い時間で復旧させる

「防災計画」との決定的な違い

多くの医療機関では「防災計画」や「避難マニュアル」はすでに整備されていると思います。

「防災計画」の主目的は、患者さんや職員の「人命・身体の安全確保(避難)」です。

一方、「BCP」の主目的は「診療(事業)を続けること」です。

「全員避難して無事でした、でも診療所は1ヶ月再開できません」ではなく、「避難した後、いかに早く診療を再開し、地域の患者さんの命を守り続けるか」という視点が加わるのがBCPの特徴です。

2. 基礎知識:「在支診・在支病」とは?

今回ターゲットとなっている「在支診」と「在支病」。改めてどのような医療機関なのかをおさらいしておきましょう。

  • 在支診(ざいししん): 在宅療養支援診療所

  • 在支病(ざいしびょう): 在宅療養支援病院

これらは、自宅で療養する患者さんを支える中心的な役割を担っており、単なる往診医ではなく、厳しい施設基準をクリアしている点が特徴です。

【主な要件】

  1. 24時間連絡体制: 患者さんがいつでも不安を相談できる体制があること。

  2. 24時間往診体制: 求めに応じて24時間いつでも医師が駆けつけられること。

  3. 連携体制: 緊急時の入院受け入れ先や、訪問看護ステーションとの連携が確保されていること。

  4. 看取り(みとり)の実績: 在宅での看取りに対応していること(機能強化型などの場合)。

つまり、在支診・在支病は「いつ何があっても患者さんを守る」ことを約束している施設と言えます。だからこそ、災害時であってもその機能を止めてはならない、という要請が強まっているのです。

3. ニュースの詳細:努力義務から「必須要件」へ

現在、医療機関全体に対してBCPの策定は求められていますが、あくまで「努力義務」(作ったほうが良いが、罰則はない)にとどまっています。

しかし、今回の厚労省案では、2026年度改定において在支診・在支病の「施設基準(要件)」にBCP策定を追加しようとしています。

これが実現すれば、「BCPを作っていない医療機関は、在支診・在支病として届け出ることができない(高い点数が算定できない)」ということになります。経営的にも非常に大きなインパクトを持つ変更です。

参考:すでに義務化されている施設もあります

実は、以下の施設ではすでにBCP策定が「必須」となっています。今回の動きは、この流れを在宅医療の診療所にも広げるものです。

  • 災害拠点病院・救命救急センター:
    指定要件としてすでに義務化されています。地域の基幹病院は策定済みです。

  • 介護サービス事業者(老人ホーム・訪問介護など):
    2024年度(令和6年度)から、完全義務化されました。介護業界ではすでに「BCPがないと運営できない」状態になっています。

4. 背景:能登半島地震などの教訓

なぜ今、義務化へ踏み切ろうとしているのでしょうか。背景には近年多発する自然災害があります。

特に在宅医療を受けている患者さんの中には、人工呼吸器や在宅酸素を使用している方、定期的な訪問診療が欠かせない重症の方が多くいらっしゃいます。停電や道路の寸断によって医療が途絶えることは、直ちに生命の危機に直結します。

災害時、個々のクリニックの頑張りだけでは限界があります。地域医療というインフラを崩壊させないために、「組織としてどう動くか」を平時から決めておくことが不可欠になっているのです。

5. 実践ガイド:0から作る必要はありません

「忙しいのに、分厚い計画書なんて作れない!」

そう思われる先生方も多いかもしれません。しかし、安心していただきたいのは、ゼロから文章を考える必要はないということです。

厚生労働省は、医療機関向けに非常に具体的な「作成支援ガイドライン」と「ひな形(テンプレート)」を公表しています。

  • 入手方法: 厚労省HPで「医療機関における事業継続計画(BCP)策定支援ガイドライン」と検索

  • 特徴: 「診療所用」「病院用」に分かれており、WordやExcel形式でダウンロード可能

これらには、災害発生時のフローチャートや、必要な備蓄リスト、緊急連絡網の様式などがあらかじめ用意されています。まずはひな形の空欄を埋める(自院の状況に合わせて書き換える)ところから始めれば、決してハードルは高くありません。

「連絡網はどうするか」「電子カルテが止まったら紙カルテはどう運用するか」「非常用電源はどこにあるか」。これらをスタッフと確認しながら埋めていくだけでも、立派なBCPの第一歩です。

6. まとめ:2026年に向けて今から準備を

今回の提案はまだ検討段階ですが、近年の災害対策強化の流れを見る限り、導入される可能性は極めて高いと言えます。

  • 2026年度改定で、在支診・在支病にBCP策定が義務化される見込み

  • BCPがないと、施設基準を満たせなくなるリスクがある

  • 厚労省のひな形を使えば、作成は難しくない

在支診・在支病は、地域の患者さんにとって「命綱」です。改定直前の3月になって慌てて書類を作成するのではなく、今のうちから少しずつ「災害時にどう動くか」を院内で話し合い、計画に落とし込んでおくことをお勧めします。

それは単なる「点数のための書類作り」ではなく、スタッフと患者さんの安全を守るための、具体的で価値ある準備になるはずです。