2025/10/16

お知らせ

運動器リハビリテーション・慢性疼痛疾患管理料・消炎鎮痛処置・外来管理加算:診療報酬における微妙な四角関係 

整形外科クリニックの日常診療において、「運動器リハビリテーション」「慢性疼痛疾患管理料」「消炎鎮痛等処置」「外来管理加算」の算定項目は、よく見る項目です。しかし、その算定ルールは非常に複雑で、まるで「微妙な四角関係」のように互いに影響し合い、多くのクリニックを悩ませています。

「このケース、併算定できたかな?」と悩んだり、あるいは意図しない形で誤った請求をしてしまい、返戻を経験されたりしたことはないでしょうか。このような経験は、診療報酬制度の複雑さを物語っています。この複雑な算定ルールをまとめてみました。

1. そもそも、4つの項目は何を評価しているのか?

まずは、この四角関係を構成する4つの柱、すなわち各診療報酬項目の定義と本質を再確認し、それぞれの役割と評価のポイントを明確に理解しましょう。

  • 運動器リハビリテーション料

    脊椎損傷による四肢麻痺、体幹・上・下肢の外傷、骨折などによる運動機能障害を持つ患者さんに対し、基本的動作能力の回復等を通じ、実用的な日常生活における諸活動の自立を図るために、種々の運動療法、実用歩行訓練、日常生活活動訓練、物理療法、応用的動作能力、社会的適応能力の回復等を目的とした作業療法等を組み合わせて個々の症例に応じて行う、構造化された機能回復アプローチです。

    点数:施設の体制により3段階に分類されています。
    運動器リハビリテーション料(Ⅰ)(1単位): 185点
    運動器リハビリテーション料(Ⅱ)(1単位): 170点
    運動器リハビリテーション料(Ⅲ)(1単位):  80点
     

  • 慢性疼痛疾患管理料 変形性膝関節症、筋筋膜性腰痛症等の慢性的な疼痛を主病とする外来患者に対し、疼痛による運動制限を改善する等の目的でマッサージ又は器具等による療法を行った場合に月1回算定できる、包括的な管理パッケージです。

    点数: 130点/月1回

    注意点: 慢性疼痛疾患管理料を算定する患者に対して行ったリハビリテーションに係る費用は、算定しないとなっていますので、リハビリテーション料を優先したほうが有利となります。

  • 消炎鎮痛等処置

    痛みや炎症の軽減、および機能改善を目的とした直接的な物理的介入に対する評価です。マッサージ等の手技による療法、温熱療法、電気療法などの物理療法、湿布処置(半肢の大部又は頭部、頸部及び顔面の大部以上にわたる範囲のもの)などが含まれます。

    点数: 35点/日

    注意点: 消炎鎮痛等処置等と疾患別リハビリテーションを同時に行った場合は、疾患別リハビリテーション料の所定点数に含まれるものとするとあるので、リハビリテーション料を優先したほうが有利となります。

  • 外来管理加算

    概要: 医師が患者さんと丁寧な問診、身体診察、症状や検査結果の説明、治療方針の相談、生活指導、今後の見通しに関する情報提供など、「思考的・コミュニケーション的サービス」を提供することに対する評価です。

    点数: 52点/回

    原則: 慢性疼痛疾患管理、厚生労働大臣の定める検査、リハビリテーション、精神科専門医療、処置、手術、麻酔及び放射線治療を行わず、計画的な医学管理を行った場合に算定できます。

2. 優先順位を整理してみると

  結論:第1優先=運動器リハビリテーション(他はケースバイケース)

 リハビリテーションを実施する方については、リハビリテーション料を最優先で算定します。リハビリテーション料Ⅲは、80点で慢性疼痛疾患管理料130点より低いのではと考えられますが、慢性疼痛疾患管理料は月1回のみの算定のため、リハビリを2単位すると160点となり逆転します。そのためリハビリテーション料は最優先となります。
 次に慢性疼痛疾患管理料と消炎鎮痛等処置の比較は来院回数によります。週1回来院して消炎鎮痛等処置をする方は月4回は算定するので280点になるため消炎鎮痛等処置を算定することになります。月1回来院して消炎鎮痛等処置をする方は、慢性疼痛疾患管理料を算定した方が点数が高くなります。
 外来管理加算は慢性疼痛疾患管理料や消炎鎮痛等処置などの処置を実施すると加算されなくなるため、優先順位は劣後となります。消炎鎮痛等処置35点より外来管理加算52点の方が高いじゃないかと思われる方もいると思いますが、そちらについては3章で触れさせていただきます。

3. 「微妙」を解き明かす!算定を可能にする例外規定と戦略的活用

厳格なルールがある一方で、臨床の現実を反映した重要な「例外」が存在します。これを理解し、適切に活用することが、患者さんにとって最適な医療を提供しつつ、クリニックの適正な請求を実現するための鍵となります。

3.1. 時間軸を味方につける:慢性疼痛疾患管理料の「算定以前」ルール

「慢性疼痛疾患管理料を算定した日以降は他の項目を算定できない」というルールには、時間的な例外があります。つまり、「その算定以前に行われた外来管理加算や消炎鎮痛等処置は算定できる」のです。

例えば、月初に急な症状(急性腰痛など)で来院し、その日は痛みの緩和を目的に消炎鎮痛等処置を行った患者さんについて、月半ばの診察で詳細な問診や検査の結果、慢性的な病態(例えば慢性腰痛症)と判断し、その日から慢性疼痛疾患管理料を算定開始する、というケースが考えられます。この場合、管理料算定以前に行った処置や加算は、その行為が発生した時点では慢性疼痛疾患管理料の包括範囲外であるため、そのまま認められます。このルールは、患者さんの病態の変化や診断の確定に時間的プロセスが伴う臨床現場の実情に配慮したものです。

3.2. 最大の例外:外来管理加算と「基本診療料に含まれる処置」

外来管理加算の算定を妨げるのは「診療報酬点数のある」処置です。点数が外来管理加算より低くても点数のある処置をすると外来管理加算は算定されなくなります。逆に言えば、点数として請求できない軽微な処置であれば、外来管理加算と両立できるという重要な例外が存在します。

典型例が小範囲の湿布処置です。消炎鎮痛等処置の「ハ 湿布処置」は「半肢の大部等にわたる」範囲が必要とされており、例えば10cm×14cmの湿布を1枚貼るような処置はこの要件を満たしません。この場合、行為としては湿布を貼っていても、請求上は「処置」と見なされず、再診料などの「基本診療料に含まれるもの」として扱われます。

したがって、外来管理加算の算定資格を失うことなく、湿布の薬剤料だけを別途算定することが可能です。これは、患者さんの利便性を損なわずに、クリニックの経営にも貢献できる戦略的な活用ポイントとなります。重要なのは、湿布処置が「診療報酬点数のある処置」の定義に合致するか否かの判断です。

4. ケーススタディで実践的に学ぼう:具体的な算定パターン

具体的なケースで、これまでのルールと例外をどのように適用するかを、いくつかのケーススタディで見ていきましょう。

  • ケースA:肩関節周囲炎でリハビリを開始した患者さん

    シナリオ: 五十肩(肩関節周囲炎)の診断で、週2回の運動器リハビリテーションを開始した患者さん。リハビリ実施日と同日にマッサージも行いました。リハビリテーション非実施日には、経過観察のため診察と指導のみ実施しました。

    算定パターン:

    リハビリ実施日: 「再診料 + 運動器リハビリテーション料」を算定します。この日に行ったマッサージは、リハビリテーション料に包括されるため、消炎鎮痛等処置は別途算定できません。

    リハビリ非実施日: 経過観察のための診察と指導のみを行い、点数のある処置やリハビリを行っていないため、「再診料 + 外来管理加算」の算定が可能です。リハビリテーションが予定されていない日でも、医師による丁寧な管理行為は評価されるべきです。

  • ケースB:変形性膝関節症の患者さん

    シナリオ: 慢性膝痛で通院中の患者さんが、月3日に急な打撲で来院し、診察のみで終了しました。その後、8日に再度膝痛で来院し、詳細な診察と説明の結果、この日から慢性疼痛疾患管理料を算定開始することとしました。

    算定パターン:

    3日の請求: 処置なしのため、「再診料 + 外来管理加算」が算定可能です。

    8日の請求: この日から慢性疼痛疾患管理料を算定開始したため、「再診料 + 慢性疼痛疾患管理料」を算定します。この日以降、この月の膝痛に対する消炎鎮痛等処置や外来管理加算は算定不可となります。しかし、8日の管理料算定は、3日の算定には影響せず、それぞれ独立した診療行為として評価されます。

  • ケースC:急性腰痛症の患者さん

    シナリオ: ぎっくり腰で来院した患者さんに対し、医師が丁寧な診察と説明を行い、鎮痛のため小範囲の湿布を1枚貼付しました。この湿布処置は「半肢の大部以上にわたる」という消炎鎮痛等処置の要件を満たしません。

    算定パターン: この湿布処置は点数算定の要件を満たさないため、「処置なし」と判断されます。したがって、「再診料 + 外来管理加算 + 薬剤料(湿布代)」の算定が可能です。医師の管理行為が適切に評価されるパターンです。

5. まとめ:複雑性の理解から、最適化された診療所経営へ

この複雑な四角関係の背後には、「包括算定の優先」「管理と処置の区別」「重複支払いの排除」という医療政策上の原則があります。これらの原則を頭の片隅にでも入れておけば、算定に迷った際には助け舟となるでしょう。

診療報酬制度は頻繁に改定され、その都度、解釈や運用に悩むことも少なくありません。しかし、本記事で解説した基本的な考え方と例外規定を理解しておくことで、新たな改定にも柔軟に対応できるはずです。この記事が、先生方の明日からの診療とクリニック経営の一助となれば幸いです。患者さんの健康とクリニックの発展のために、常に最新の知識を取り入れ、最適な診療を目指していきましょう。