2025/11/17

備忘録

中小企業・スタートアップのための「退職金制度」導入ガイド ~ 低コストなiDeCo+ ・中退共 から、採用に強いDC ・はぐくみ基金 までわかりやすく比較 ~

「退職金制度」は終身雇用の崩壊や働き方の変化に伴い、退職金制度自体の考え方も変わってきています。働き方が多様化してきているのと同様に退職金制度も様々な制度が作られており、「いろいろありすぎてわからない」と嘆いている経営者の方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、低コストで始められる「iDeCo+(イデコプラス)」や「中退共(中小企業退職金共済)」から、採用力強化につながる「企業型DC(確定拠出年金)」や「はぐくみ基金」まで、主要な制度を徹底比較します。

各制度の加入方法、必須となる「退職金規程」のポイント、そして企業規模別のおすすめまで、導入に必要な知識を分かりやすく解説します。

1. 種類別加入の方法

退職金制度には主に以下制度があり、各制度を導入する際の、一般的な手続きや窓口は次の通りです。

  • 退職一時金制度(自社準備)
    外部の手続きはありません。企業が「退職金規程」を(就業規則の一部として)作成し、従業員に周知します。資金準備(内部留保、生命保険契約など)も自社で行います。

  • 確定給付企業年金(DB)
    手続きは最も複雑です。労使合意の上で精緻な制度設計と「規約」を作成し、厚生労働大臣の認可を得て基金を設立(または既存の基金に加入)します。信託会社等との契約も必要で、主に大企業向けです。

  • はぐくみ基金

     従来のDB設立より大幅に簡素化されています。すでに認可されている「福祉はぐくみ企業年金基金」に対し、制度設計(選択制の有無など)を決定後、労使合意を経て「加入申込」を行います。

  • 企業型確定拠出年金(DC)

    労使合意の上で「規約」を作成し、厚生労働省への承認申請が必要です。並行して、制度の運営・管理を行う「運営管理機関(金融機関など)」を選定し、契約します。

  • iDeCo+(イデコプラス:中小事業主掛金納付制度)

    これは厳密には会社の「退職金制度」ではなく、従業員のiDeCo(個人型DC)に会社が掛金を上乗せする制度です(従業員300人以下 ※)。従業員がiDeCoに加入していることが前提です。労使合意の上、年金事務所(日本年金機構)への届出が必要です。企業型DCやDBとの併用はできません。

    ※2024年12月より従業員300人以下に拡大。

  • 中小企業退職金共済(中退共)

    手続きは最も簡便です。独立行政法人勤労者退職金共済機構(中退共)と「退職金共済契約」を締結します。申込書類やWebから手続きが可能です。

  • 特定退職金共済

     企業が所在する地区の商工会議所や商工会が運営主体のため、該当の団体を通じて加入手続きを行います。(似たような名称の特定業種退職金共済(建設業・林業等厚生労働省が指定した特定の業種が加入する制度)があるので注意が必要です。)


2. 種類別による退職金規程の作成

❓ 必要か否か?

結論として、どの制度を採用する場合でも、退職金規程(または就業規則本体への記載)は必要です。

これは社労士としての重要な見解です。退職金やそれに類する手当(DCの掛金、iDeCo+の事業主掛金なども含む)は、労働基準法上の「労働条件」にあたり、退職金制度は、就業規則の相対的記載事項とされています。そのため、制度を設ける場合は、適用範囲、計算方法、支払時期などのルールを就業規則(または別規程としての退職金規程)に必ず明記し、従業員に周知する義務があります(労働基準法第89条)。

これは、外部の共済(中退共など)に加入するだけであっても同様です。

✍️ 必要な場合の主な記載例


制度

主な規程記載例(概要)

退職一時金

最も詳細な記載が必要です。
・適用範囲: 「勤続3年以上の正社員に適用」など。
・計算方法: 「退職時基本給 × 勤続年数別支給率 × 退職事由係数」といった具体的な計算式。
・支給率テーブル: 勤続年数に応じた支給率の一覧表。・退職事由: 「会社都合」「自己都合」別の支給率や、懲戒解雇時の不支給の定め。

DB(従来型)

・適用範囲: DB規約に準拠する旨。
・給付内容: 「当社が設立した(または加入する)確定給付企業年金規約に定めるところにより、年金または一時金を支給する」という形で、詳細な設計は外部の「規約」に委ねる形になります。

はぐくみ基金

・適用範囲: 基金の規約に準拠する旨。
・給付内容: 「当社が加入する福祉はぐくみ企業年金基金の規約に定めるところにより、給付を行う」という旨。
・(選択制の場合): 「従業員は、別に定める手当(ライフプラン手当等)について、給与として受け取るか、基金への掛金とするかを選択できる」といった定め。(※給与規程の変更も伴います)

企業型DC

・適用範囲: DC規約に準拠する旨。
・掛金: 「会社は企業型確定拠出年金規約に基づき、加入者ごとに掛金を拠出する」という旨。
・給付: 「給付(受け取り)は運営管理機関を通じて行われる」という旨。・その他: 投資教育の実施義務なども記載します。

iDeCo+

※これは「退職金」規程とは別に、「iDeCo+規程」や「給与規程」の一部として定めるのが一般的です。
・適用範囲: 「iDeCoに加入している従業員を対象とする」旨。
・事業主掛金: 「会社は、iDeCo+の規約に基づき、加入者ごとに事業主掛金を納付する」という旨。
・その他: 従業員掛金と事業主掛金の合計上限(iDeCoの拠出限度額内)についても触れます。

中退共・
特定退職金共済

・適用範囲: 「当社は従業員のため、中小企業退職金共済(または特定退職金共済)に加入する」という旨。
・掛金: 「掛金月額は別に定めるところによる」など。
・給付: 「退職金は、同共済から直接従業員に支払われる」という旨。
・その他: 「会社は、この共済からの給付以外に退職金を支給しない」と明記するのが一般的です。

3. スタートアップ・ベンチャー企業(設立間もない・従業員少数)におすすめ制度は?

  • おすすめ: 中退共、はぐくみ基金、企業型DC、iDeCo+

  • なぜなら:

    まずは管理コストをかけずに導入できることが最優先です。

    中退共は手続きが最も簡便で、掛金も少額から可能です。特に新設法人は掛金助成(補助金)が受けられるメリットが大きいです。

    はぐくみ基金や企業型DCは、「選択制」を導入できる場合もあり、社会保険料の適正化(会社・個人双方の負担軽減)や採用PR、従業員の資産形成支援にもなります。(はぐくみ基金は設立後1年未満の加入が制限されています。)

    iDeCo+は、企業型DC導入ほどの事務コストをかけずに、従業員のiDeCo(資産形成)を支援できるため、最も低コスト・低負担な選択肢の一つです。


4. まとめ:退職金制度 比較一覧表

制度名

1. 加入方法(主な窓口)

2. 退職金規程

3. 主な規程内容

4. おすすめの企業像

運用責任

退職一時金

自社で規程作成・資金準備

必須

計算式、支給率、支給要件

伝統的な企業、内部留保が厚い企業

(自社で準備)

DB(従来型)

厚労省認可、信託銀行等と契約

必須

外部規約(年金規約)に従う旨

大企業、中堅企業(人材の長期定着を重視)

会社

はぐくみ基金

既存基金(福祉はぐくみ)に加入

必須

外部規約(基金規約)に従う旨(選択制の定めなど)

スタートアップ、中小企業(柔軟な設計・福利厚生充実)

基金(会社)

企業型DC

厚労局承認、運営管理機関と契約

必須

外部規約(DC規約)・掛金に従う旨

スタートアップ~大企業(従業員の自律的資産形成を支援)

従業員

iDeCo+

年金事務所に届出(労使合意)

必須(iDeCo+規程等)

外部規約(iDeCo規約)に従う旨(事業主掛金の定め)

スタートアップ、中小企業(低コストで資産形成を支援)

従業員

中退共

中退共機構と契約(Web可)

必須

中退共制度に加入する旨

スタートアップ、中小企業(管理コストを最小限に)

(機構が運用)

特定退職金共済

商工会議所・商工会と契約

必須

特退共制度に加入する旨

中小企業(商工会議所等の会員企業)

(共済団体が運用)