2025/12/10
備忘録
レセプト査定の「再審査請求」完全ガイド
医療機関で受診をすると診療費を会計窓口で支払うことになりますが、あくまでも健康保険証を提示して診療費のうちの3割(ないしは2割、1割)を患者負担分として支払っているのです。残りの7割(ないしは8割、9割)は医療機関が診療報酬明細書(レセプト)を保険者に提出して請求することになります。これを診療報酬請求業務(レセプト請求業務)といいます。レセプト請求すればそのまま全額入金されるのかというとそうではありません。審査機関(支払基金や国保連合会)や保険者の審査があり、審査に通らないケースもあります。審査に通らないものは査定(減点)や返戻(やり直し)になります。
本記事では、レセプト請求後に発生する「査定(減点)」と「返戻(やり直し)」の仕組みと、「査定」の場合に失われた収益を取り戻すための「再審査請求」について、解説します。
1. 査定と返戻の違い
レセプトを提出した後、審査機関から戻ってくるものには「返戻(へんれい)」と「査定(さてい)」の2種類があります。これらは似て非なるものであり、経営への影響も異なります。
返戻(へんれい)=「やり直し」
概要: 記載項目の不備(保険証番号の誤りなど)や、請求内容に不明点・疑義がある場合に、審査支払機関から医療機関へレセプトそのものが差し戻されることです。
対応: 指摘された箇所を修正・追記して再請求すれば、入金月は遅れますが、原則として請求した金額は回収可能です。
影響: キャッシュフローの一時的な遅れとなります。
査定(さてい)=「減点(カット)」
概要: 審査の結果、保険診療のルール上「不適当」「過剰」と判断され、請求した点数が減額されること、あるいは請求自体が認められないことです。
対応: そのまま放置すれば、減点された分の売上は確定的に失われます。
影響: 単なる入金遅れではなく、「収益の損失」が確定してしまいます。
人間が点検を行う以上、ミスをゼロにすることは困難ですが、「返戻」には迅速に対応し、「査定」に対しては泣き寝入りせず対策を講じることが重要です。
2. 「査定(減点)」の事由
なぜ減点されたのか、その理由は「増減点連絡書(通知書)」によって通知されます。ここにはアルファベットの記号で理由が記されています。この記号の意味を理解することが、対策の第一歩です。
① 診療内容に関するもの(医学的判断)
もっとも多く、判断が分かれやすい部分です。
A(適応外): 添付文書上の適応がない薬剤の使用や、病名が抜けている(あるいは間違っている)場合。
B(過剰・重複): 薬剤の過剰投与、検査回数がルールの上限を超えている、類似した検査の重複算定など。
C(医学的に不適当): 禁忌薬の投与や、A・B以外の医学的な理由による否認。
D(算定要件不適合): 厚生労働省の告示や通知にある算定要件(施設基準や時間要件など)を満たしていない場合。
② 自動点検システムによるもの
コンピュータによる自動チェックで弾かれるケースです。
J(縦覧点検): 過去のレセプトを参照した査定。
例:3ヶ月に1回しか算定できない検査を、先月も実施しているためカットされる。
Y(横覧点検): 入院と外来を照合した査定。
例:退院後1ヶ月は算定できない管理料を、退院直後の外来で算定している。
T(突合点検): 院外処方箋と調剤レセプトを突き合わせた査定。
もっとも注意が必要です。薬局側のレセプトと照合し、傷病名が合致しない場合や適応外の医薬品が出されている場合、処方箋を発行した医療機関側が減点されます。
※支払基金では「縦覧点検」「横覧点検」「突合点検」の点検は実施していますが、(J)(Y)(T)の記号は使用していません。また、「横覧点検」という表現もしていません
③ 事務上のミス
F・G・H・K: 固定点数の誤り、集計ミス、計算間違いなど、単純な事務処理上のエラーです。
※出典:東京都医師会「[13] レセプトの点検、審査、返戻、査定、再審査請求など」より引用
3. 査定の異議申し立て「再審査請求」とは?
査定(減点)の結果に納得がいかない場合、審査支払機関に対して「もう一度審査してください」と申し立てることができます。これを「再審査請求」といいます。
申し立てを行うと、数ヶ月後に以下のいずれかの結果が通知されます。
原審通り: 申し立てが認められず、減点のまま変更なし(敗訴)。
一部復活: 主張の一部が認められ、減点された点数の一部が戻ってくる。
復活: 主張が全面的に認められ、減点された点数が回復する(勝訴)。
4. データで見る「再審査請求」をやるべき理由
「再審査請求は手間がかかるし、どうせ戻ってこない」と考えて、そのままにしていませんか? データを見ると、明らかな入力間違いならともかく再請求しないことは非常にもったいないことが分かります。
復活率は「約6割」
東京保険医協会の調査によると、再審査請求を行った結果、「多くが復活(約2割)」+「半分程度復活(約4割)」と、合計で約6割のケースで減点分が取り戻せているというデータがあります。つまり、きちんと主張すれば認められる可能性は十分に高いのです。
実施率は「約3割」にとどまる
高い復活率があるにもかかわらず、減点内容に不満がある場合に「必ず再審査請求をする」と回答した医療機関は約3割しかありません。多くのクリニックが、戻ってくるはずの収益をみすみす捨てている現状があります。
放置するリスク
面倒だとか、審査機関に目をつけられるという理由で、再審査請求をしないケースもありますが、査定に対し再審査請求をしないということは、審査側の判断(間違いの可能性もあります)を認めたことになります。「この査定は受け入れられた」と記録され、将来にわたって同様のケースで査定され続けるリスクが高まります。
自院の医学的妥当性を示すためにも、不服がある場合は意思表示をすることが重要です。
5. 実践!再審査請求の方法と手順
では、実際にどのように請求すればよいのでしょうか。
請求期限
原則として、通知を受けてから6ヶ月以内です。期限ギリギリではなく、通知が届いたら速やかに処理するフローを作りましょう。
請求方法
以下の2つの方法があります。現在は事務負担の少ないオンライン請求が推奨されています。
紙媒体での請求
「再審査請求書」を作成し、減点通知書のコピーと、該当するレセプトの写しを添付して、審査支払機関へ郵送します。
※再審査請求書はこちら(出典:社会保険診療報酬支払基金HP)
オンラインでの請求(推奨)
レセプトのオンライン請求システムを活用します。
「医療機関再審査等請求ファイル作成ツール」をダウンロードして使用すれば、紙の書類を手書き・印刷する手間がなく、画面上でスムーズに申請が完結します。
※オンラインによる再審査等請求書の提出先及び提出方法(出典:社会保険診療報酬支払基金HP)
6. まとめ
毎月届く「増減点連絡書」を、単なる結果通知として保管するだけにしてはいけません。
分析する: なぜ査定されたのか(記号の確認)、傾向を把握する。
請求する: 納得できない査定、医学的に説明できるものについては、点数の大小に関わらず積極的に「再審査請求」を行う。
もし、日々の診療が忙しく、こうした詳細な点検や再審査請求の理由書作成(詳記の作成)に手が回らない場合は、レセプト点検の代行(アウトソーシング)を検討するのも有効な手段です。
外部の専門家の目を入れることで、自分たちでは気づけなかった「加算漏れ」や「算定ルール勘違い」に気づくことができ、結果として査定率を下げ、収益を向上させることにつながります。
まずは今月の通知書を確認し、1件でも再審査請求を行ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。
