2025/12/23

備忘録

「知らない」では済まされない!36協定なしの残業が招く深刻な罰則と正しい締結ルール

1、36協定を締結していなくても、直ちに違法ではない

(1)36協定とは

36協定(さぶろくきょうてい)とは、労働基準法第36条に基づく労使協定のことです。労働基準法では、従業員に「法定労働時間」を超えて働かせることを原則として禁止しています。この禁止を例外的に解除し、適法に残業をさせるために必要なのが36協定です。

ここで重要になるのが、「法定労働時間」と「所定労働時間」の違いです。

項目

内容

法定労働時間

法律(労働基準法)で定められた上限。原則として1日8時間・1週40時間です。

所定労働時間

会社が就業規則などで独自に決めた勤務時間。法定労働時間の範囲内で設定します(例:1日7時間30分など)。

36協定が必要になるのは、このうち「法定労働時間(1日8時間・週40時間)」を超える労働や、法定休日における労働をさせる場合です。所定労働時間を超えても、法定労働時間の枠内であれば(法定内残業)、法律上の36協定届は必須ではありません。

(2)36協定の締結は必須ではない|時間外労働や休日労働をさせなければOK

36協定は、すべての企業に締結義務があるわけではありません。従業員に1分も残業をさせず、休日出勤も一切行わせない体制であれば、36協定を締結していなくても法律違反にはなりません。

しかし、急なトラブル対応や繁忙期の業務増など、法定労働時間を超える可能性が少しでもあるなら、万が一の事態に備えて締結・届け出をしておくのが実務上の通例です。


2、36協定を締結せずに、時間外労働や休日労働をさせた場合のペナルティー

36協定を届け出ずに法定労働時間を超えて労働させた場合、労働基準法違反として厳しい罰則の対象となります。

(1)労働基準監督署の是正勧告を受ける

労働基準監督署の調査(臨検)が行われ、36協定なしの残業が発覚すると、まず「是正勧告」を受けます。これは行政指導であり、直ちに刑罰が科されるわけではありませんが、指定された期日までに改善状況を報告しなければなりません。

(2)起訴されて刑事罰を受ける

是正勧告を無視し続けたり、著しく悪質な労働環境であると判断されたりした場合には、書類送検され刑事罰を科される可能性があります。

・罰則:6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金

また、企業名が公表されることで社会的信用を大きく損なうリスク(レピュテーションリスク)も無視できません。

3、36協定を締結する際の手続きの流れ

36協定を有効にするためには、以下の4つのステップを正しく進める必要があります。

(1)労働者側と交渉する

会社と労働者の代表との間で、残業の必要性や延長できる時間の限度について協議します。労働者側の代表は、以下のいずれかである必要があります。

・労働者の過半数で組織する労働組合

・(組合がない場合)労働者の過半数を代表する選任された人

代表者の選任は、投票や挙手など民主的な方法で行う必要があり、会社側が管理職を一方的に指名するような行為は認められません。

(2)36協定を締結する

合意した内容を「36協定書」として書面にまとめ、労使双方で署名または記名押印します。延長する時間のほか、対象となる業務や有効期間を明確に定めます。

(3)労働基準監督署に届け出る

作成した協定届を管轄の労働基準監督署へ提出します。「届け出」が受理されて初めて、時間外労働をさせても罰せられないという法的効果(免罰的効力)が発生します。

(4)36協定の内容を労働者に周知する

届け出た内容は、従業員がいつでも確認できるように周知する義務があります。作業場への掲示や、社内サーバーでの公開、書面の配布などの方法で行います。この周知を怠ると、それだけで労働基準法違反となります。


4、36協定の締結・運用に関する注意点

(1)36協定は定期的な更新が必要

36協定には有効期間(一般的に1年間)を設けます。期限が切れると自動的に残業ができなくなるため、期限が切れる前に毎年、再締結と届け出を行う必要があります。

(2)36協定を締結しても、無制限に残業させられるわけではない

36協定で定められる時間外労働には、原則として上限があります。

・月45時間、年360時間

これを超える労働をさせるには、別途「特別条項」の手続きが必要です。なお、2024年4月からは建設業やドライバー、医師についても上限規制が全面的に適用されています。

(3)36協定は事業所ごとに締結する必要がある

会社単位ではなく、支店や工場などの「事業所単位」で届け出るのが原則です。拠点ごとに労働代表を選出し、各管轄の監督署へ提出します。

(4)36協定の締結後も、安全配慮義務を怠らない

協定の範囲内であっても、過重労働により従業員が健康を損なえば、企業は安全配慮義務違反として損害賠償を請求される可能性があります。


5、特別条項について

通常の上限(月45時間)を超えて働かせる必要がある場合、「特別条項」を設けることができます。ただし、特別条項を適用する際にも、以下の絶対的な上限規制が存在します。

  • 年720時間以内(時間外労働のみ)

  • 月100時間未満(時間外労働+休日労働)

  • 2~6ヶ月平均で月80時間以内(時間外労働+休日労働)

  • 月45時間を超えられるのは、年間6回(6ヶ月)まで

これらの上限を一つでも超えると、法違反となります

健康確保措置の実施義務

特別条項を適用して長時間労働をさせる場合、会社は従業員の健康を守るための「健康確保措置」を講じなければなりません。これは36協定届に具体的な内容を記載する項目があり、実施は義務となっています。

主な措置の例は以下の通りです。

・医師による面接指導の実施

・深夜業(22時〜5時)の回数制限

・勤務間インターバル(終業から翌始業までの休息時間)の設定

・代休・振替休日の付与

・専門の窓口によるメンタルヘルス相談の実施

これらは単に項目を選ぶだけでなく、実際にその措置が受けられる体制を整えておく必要があります。


6、まとめ

36協定は、企業が適法に事業を継続するために必要不可欠な手続きです。

「法定労働時間」と「所定労働時間」の違いを正しく理解し、適正なプロセスで締結・届け出を行いましょう。特に特別条項を適用する際は、上限規制の遵守はもちろんのこと、健康確保措置を適切に講じて、従業員が安全に働ける環境を整えることが、企業としての法的・社会的責任となります。