2026/2/9

備忘録

給与計算で迷う残業代の計算の実務ガイド

給与計算を行う際、残業代の計算方法によって、その金額がわずかに変動することにお気づきの方もいるかもしれません。本稿では、そのような疑問点について解説していきます。

1. 割増賃金(残業代)の計算に含める手当・除外する手当

割増賃金の算定基礎となる賃金には、原則として全ての賃金を含める必要があります。しかし、労働基準法第37条および施行規則第21条に基づき、限定的に以下の7種類の手当のみ、算定基礎から除外することが認められています。

【注意点】

  • これらの名称を持つ手当であれば、必ずしも全てが除外できるわけではないため、適用にあたっては注意が必要です。

除外できる手当

判断の注意点(実務上のポイント)

家族手当

扶養人数に関わらず一律支給する場合は算入が必要。

通勤手当

距離や実費に関わらず一律支給する場合は算入が必要。

別居手当

単身赴任による生活費の二重負担をうもの。

子女教育手当

子供の人数や教育課程に応じて支給されるもの。

住宅手当

家賃やローン額に関わらず一律支給する場合は算入が必要。

臨時の賃金

結婚手当や病気見舞金など、突発的な事由に基づくもの。

1ヶ月を超える期間の賃金

賞与や3ヶ月ごとの精勤手当など。


2. 1ヶ月平均所定労働時間数の算出と端数処理

月給制における1時間あたりの賃金(時間単価)の算定には、まず「分母」となる時間を確定させる必要があります。

実務では、月によって時間単価が変動するのを避けるため、年間の休日数に基づき、以下の式で算出した「一か月の平均所定労働時間」を用いるケースが多く見られます。もちろん、その月ごとの所定労働時間を用いて時間単価を計算することも可能です。

【計算式】

1ヶ月平均所定労働時間 = (365日 - 年間休日数) × 1日の所定労働時間 ÷ 12ヶ月

労働時間数(分母)の端数処理

計算の結果、小数点以下の端数が出た場合、実務上は「切り捨て」を行うことが一般的です。分母を小さく設定すれば、算出される単価が高くなり、労働者にとって有利な設定(適法な運用)となるためです。

  • パターンA:小数点以下を切り捨て(整数化)
    例:163.333...時間 → 163時間(最も単価が高くなり、計算もシンプル)

  • パターンB:小数点第1位や第2位で切り捨て
    例:163.333...時間 → 163.3時間 または 163.33時間

注意点: 法律では端数処理の方法は特に決まっていませんが「四捨五入」や「切り上げ」を行うと単価が下がる可能性があるため労働者に不利になってしまうので注意が必要です。


3. 割増賃金の算出プロセスと端数処理

計算は以下の3ステップで行います。行政通達(基発150号)により、50銭を基準とした端数処理が認められています。

STEP 1:1時間あたりの「基礎単価」を算出する

計算:算定基礎賃金 ÷ 1ヶ月平均所定労働時間

※1円未満の端数は、50銭未満切り捨て、50銭以上1円切り上げが可能です。

STEP 2:法定内残業(所定外労働)の計上

1日の所定労働時間が8時間未満(例:7.5時間)の場合、8時間に達するまでの労働は法的に割増(1.25倍)の義務はありません。

計算:基礎単価 × 1.0 × 法定内残業時間

STEP 3:法定外残業に対する「割増率」の適用

法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働に対して、以下のいずれかの方式で計算します。

  • ① 連乗方式(原則):
    基礎単価 × 1.25 × 法定外残業時間 を一気に計算し、最後に円未満を端数処理(50銭基準)します。

  • ② 簡便処理方式(実務向き):
    (基礎単価 × 1.25) を先に計算し、その時点で円未満を四捨五入(50銭基準)して「割増単価」を確定させた後、時間を掛けます。


4. 具体的な計算シミュレーション(方式による比較)

【条件】 基本給30万円、1日7.5時間勤務、年間休日120日、法定外残業10時間

(平均所定労働時間は153.125時間 ➡ 153.12時間に切り捨てて計算)

■ 基礎単価(時給単価)の算出

300,000円 ÷ 153.12時間 = 1,959.247...円

パターン1:連乗方式

計算の途中で端数処理を行わず、最後にまとめて処理します。

  • プロセス:1,959.247 ...円 × 1.25 × 10時間 = 24,490.59...円

  • 最終支給額:24,491円(50銭基準で切り上げ)

パターン2:簡便処理方式

 段階ごとに端数処理を行い、金額を確定させていきます。

  1. 基礎単価の確定: 1,959.247...円 → 1,959円(50銭基準で切り捨て)

  2. 割増単価の確定: 1,959円 × 1.25 = 2,448.75円 → 2,449円(50銭基準で切り上げ)

  3. 支給額の算出: 2,449円 × 10時間 = 24,490円

50銭基準で切り捨て、切り上げでなく、小数点以下を切り上げ処理することも労働者有利になるので大丈夫ですが、小数点以下を切り捨てると労働者不利になるためダメということになります。


5. まとめ

割増賃金の計算では、常に「労働者に有利な取り扱いか」を判断の基準とすれば、迷うことはありません。

【有利な計算の考え方】

  • 分母(所定労働時間): 数字が小さいほど単価が上がるため、切り捨てが労働者にとって有利になります。

  • 単価(1円未満の端数): 単価を上げることで労働者に有利となるため、切り上げが望ましいですが、実務上は50銭基準での運用が認められています。

現在は給与計算ソフトの設定で自動化されているケースが多いものの、一度、自社の計算ルールを確認することをお勧めします。