今回、国会に提出された年金制度改正法案について、「基礎年金の底上げ」の話題ばかりが取りざたされていますが、ほかにもみなさんの将来もらえる年金の額について、重要な改正案がありますので、具体的にどんなポイントが変わるのか、見ていきましょう!年金制度改正法案の主な内容とポイント今回の改正法案には、主に4つの大きな柱と、その他の見直しが含まれています。1. パートやアルバイトでも年金が増えるチャンス!【社会保険の加入対象拡大】2024年10月から、従業員数51人~100人の企業等で働くパート・アルバイトが新たに社会保険の適用になりました。今回の改正では、この加入対象がさらに大きく広がります。加入要件がシンプルに!賃金要件の撤廃: いわゆる「年収106万円の壁」が、全国の最低賃金の状況を見ながら3年以内に廃止される予定です。これにより、賃金による加入の線引きがなくなります。企業規模要件の撤廃: 働く企業の規模にかかわらず社会保険に加入できるようになります。これは10年かけて段階的に拡大されます。具体的には、従業員51人以上の企業から始まり、2035年10月には10人以下の企業まで対象が広がる予定です。個人事業所も対象拡大これまで対象外だった「常時5人以上の従業員を使用する個人事業所」のうち、法律で定める17業種以外の業種(農業、林業、漁業、宿泊業、飲食サービス業など)も、2029年10月から対象になります。ただし、2029年10月時点で既に存在する事業所は当分の間、対象外となります。新たに加入する方への支援企業規模要件の見直しなどで新たに社会保険に加入することになる短時間労働者に対して、3年間、事業主の追加負担による保険料負担軽減措置が実施されます。この事業主の追加負担分は、国などからの支援があります。この改正により、より多くの短時間労働者が厚生年金に加入できるようになり、将来受け取る年金額を増やすことができるメリットがあります。2. 長く働いても年金が減りにくくなる!【在職老齢年金の見直し】年金を受け取りながら働く高齢者の方向けの見直しです。支給停止の基準額が引き上げ: 現在、年金を受給しながら働く65歳以上の方で、賃金と老齢厚生年金の合計が月50万円を超えると、超えた額に応じて年金の一部が支給停止されます。この基準額が、2026年4月から月62万円に引き上げられます。見直しの効果: この基準引き上げにより、年金が減額されにくくなり、より多く働けるようになります。これにより、新たに約20万人の高齢者が年金を全額受給できるようになると見込まれています。これは、一部で指摘される高齢者の働き控えを緩和し、人手不足の解消にもつながると考えられています。3. 万が一の時に備える!【遺族年金の見直し】遺族年金についても、男女間の違いをなくしたり、こどもが年金を受け取りやすくする見直しが行われます。遺族厚生年金の男女差解消女性の就業率向上などを踏まえ、遺族厚生年金の男女差が解消されます。例えば、こどものいない場合、これまでは30歳未満で夫を亡くした女性は5年間の有期給付でしたが、改正後は男女共通で原則5年間の有期給付となります。また、これまで給付がなかった55歳未満で妻を亡くした男性も、配偶者の死亡時の年齢に関わらず、原則5年間の有期給付(配慮が必要な場合は継続給付)の対象となります。この見直しは、男性は2028年4月から実施され、女性は2028年4月から20年かけて段階的に実施されます。こどもが遺族基礎年金を受け取りやすくこれまでは、父または母と生計を同じくしている場合、こどもは遺族基礎年金を受け取れないケースがありました。改正後は、父または母が遺族基礎年金を受け取れない場合でも、こども自身が遺族基礎年金を受け取れるようになります。例えば、母親が再婚した場合、母親の収入が年金受給要件を超えている場合、あるいは離婚後に母親に引き取られた場合などでも、こどもは遺族基礎年金を受け取れるようになります。この見直しは2028年4月から実施されます。4. 給料が多い人も、もっと年金に反映されるように!【賃金上限の引き上げ】厚生年金などの保険料や年金額を計算する際に用いられる賃金の上限が引き上げられます。賃金上限の段階的引き上げ: 現在、賃金月額65万円が上限となっていますが、これが段階的に引き上げられます。2027年9月~:月68万円2028年9月~:月71万円2029年9月~:月75万円見直しの効果: 月65万円を超える高賃金の方も、実際の賃金に見合った保険料を負担し、将来受け取る年金額に反映されやすくなります。例えば、月75万円以上の方の場合、保険料の本人負担分は月額で約9,100円(社会保険料控除を考慮すると約6,100円)増え、将来受け取る年金額(10年間該当した場合)は月額で約5,100円(年金課税を考慮すると約4,300円)増える見込みです。これにより、厚生年金全体の給付水準も上昇します。その他にもこんな見直しがあります!子の加算の拡充年金を受給しながらこどもを育てている方への加算額が充実します。見直し後は、厚生年金、基礎年金の受給者に関わらず、こども(※)一人あたりの加算額が281,700円(2024年度価格)となります。また、年下の配偶者を扶養している場合に支給される老齢厚生年金の配偶者加給年金額が見直されます(現行408,100円から367,200円へ)。これは2028年4月から実施されます。※こども: 18歳になった年度末まで または 障害の状態にある場合は 20歳未満の方。脱退一時金の見直し短期間の滞在で年金を受け取れない外国人への脱退一時金制度について見直しが行われます。再入国許可付きで出国した外国人には、許可の有効期間内は脱退一時金を支給しないこととなります。これは4年以内に実施される予定です。私的年金制度の見直しiDeCo(個人型確定拠出年金)の加入可能年齢の上限が、働き方にかかわらず70歳まで引き上げられます。これにより、より長く老後の資産形成ができるようになります。これは3年以内に実施される予定です。企業型DC(企業型確定拠出年金)についても、事業主の拠出に上乗せして従業員が拠出できる額(マッチング拠出)の制限が撤廃され、拠出限度額の枠を十分に活用できるようになります。企業年金の運営状況に関する情報公開(見える化)も進められ、加入者の利益のために運営改善が図られるようになります。いつから変わるの? 改正スケジュール主な改正項目の施行時期は以下の通りです。在職老齢年金の支給停止基準額の引き上げ:2026年4月~新たな社会保険加入拡大の対象となる方への支援:2026年10月~保険料・年金額計算の賃金上限引き上げ:2027年9月~(段階的に)社会保険加入対象の企業規模要件の段階的撤廃:従業員36~50人の企業は2027年10月~、21~35人の企業は2029年10月~、11~20人の企業は2032年10月~、1~10人の企業は2035年10月~遺族厚生年金の男女差解消:男性は2028年4月~、女性は2028年4月~(20年かけて段階的に)こどもを養育する年金受給者の加算額拡充:2028年4月~遺族基礎年金のこどもの範囲拡大:2028年4月~iDeCoの加入可能年齢引上げ:公布から3年以内の政令で定める日~脱退一時金制度の見直し:公布から4年以内の政令で定める日~企業型DCの拠出限度額の拡充:3年以内に実施企業年金の運用の見える化:5年以内に実施この改正で私たちの将来はどうなるの?今回の改正は、少子高齢化や多様化する働き方、家族構成といった社会の変化に対応するためのものです。制度全体としては、現在の受給者と将来の受給者双方の老後の生活の安定と所得保障の機能を強化することが目的とされています。将来の年金水準については、今後の経済の推移によって変動する可能性があります。経済が好調に推移すれば、将来の年金水準は概ね維持される見込みです。しかし、経済が好調に推移しない場合は、基礎年金の水準が低下し、低年金の方が増加する懸念も示されています。国としては、経済成長への取り組みや、次回の財政検証(2029年予定)の結果を踏まえた必要な対応により、特に就職氷河期以降の世代の年金水準を確保していく考えです。また、年金額の伸びを抑えるマクロ経済スライドは2030年度まで継続されますが、受給者に不利にならないよう緩やかに抑制されます。まとめ ~多様な働き方、生き方を応援する年金制度へ~今回の年金制度改正法案は、社会の変化に合わせて、より多くの人が安心して老後を迎えられるようにするための様々な見直しが含まれています。特に、短時間労働者の社会保険加入対象拡大や、働く高齢者の在職老齢年金の見直しは、多様な働き方を選択しやすくなることにつながります。こどもの加算が拡充される一方で、配偶者加給年金が減額されるなど、知っておいて損はありません。制度改正は複雑に感じるかもしれませんが、これは私たちの暮らしや将来に直接関わる大切な変更です。このブログが、皆さんがご自身の年金について考えるきっかけとなれば幸いです。詳しくはこちらの厚生労働省のサイトをご確認ください。