2025/9/7
お知らせ
「やらなきゃ…」から「やってて良かった!」へ。クリニックを守る6つの安全指針

「医療安全対策」と聞くと、少し身構えてしまうかもしれません。平成19年の医療法改正以降、無床診療所にも各種指針の策定が義務付けられたことを、知らないクリニックも多いのではないでしょうか。
しかし、これらの指針は、決して形式的な書類ではありません。患者さんからの信頼を守り、スタッフが安心して働ける環境を整え、そして何より、万が一の際にクリニックと先生ご自身を守るための重要なツールです。
策定が求められる6つの主要な指針について、日本医師会が提供するモデル(雛形)を活用しながら、自院の実情に合った「指針」を効率的に作成するためのポイントを分かりやすく解説します。
■ まずはここから!6つの必須指針と作成のポイント
法律で定められた指針は多岐にわたりますが、まずはクリニック運営の根幹となる以下の6つを整備することが重要です。それぞれの目的と、盛り込むべき項目を確認していきましょう。
(1) 医療安全管理指針:クリニックの安全文化の「憲法」
これは、クリニック全体の医療安全に対する基本的な考え方と体制を定める、最も重要な指針です。スタッフ全員が同じ方向を向いて安全に取り組むための土台となります。
盛り込むべき主要項目
医療安全に関する基本理念
インシデント・アクシデントの報告ルールと、その後の改善策
医療安全のための研修に関する基本方針
医療事故発生時の対応体制
作成のヒント
日本医師会の無床診療所向けモデルが非常に参考になります。まずはこのモデルをベースに、「報告は誰に行うか」「研修はいつ行うか」など、ご自身のクリニックの規模やスタッフ構成に合わせて具体的に書き換えていきましょう
参考資料: 日本医師会「医療安全管理指針のモデルについて」
(2) 院内感染対策指針:患者とスタッフを感染から守る
日々の標準予防策から、感染症発生時の対応までを具体的に定めます。特に、職員の入れ替わりがあっても対策の質を維持できるよう、誰が読んでも理解できる手順を明記することが大切です。
盛り込むべき主要項目
院内感染対策に関する基本的な考え方
手指衛生や消毒など、平時の対策
感染症発生状況の報告に関する方針
院内感染発生時の対応に関する方針
患者さんへの情報提供(指針の閲覧など)
作成のヒント
こちらも日本医師会のモデルを参考に、自院で採用している消毒薬の種類や、清掃・リネン交換の具体的な手順などを追記すると、より実践的な指針になります。
参考資料: 日本医師会「院内感染対策指針のモデル」
(3) 診療用放射線の安全利用のための指針:X線装置を持つ全てのクリニックが対象
エックス線装置を備えている場合、この指針の策定と安全管理体制の構築が義務付けられています。患者さんの被ばく低減と、スタッフの安全確保が目的です。
義務付けられていること
安全管理責任者の配置(原則、常勤の医師または歯科医師)
安全利用のための指針の策定
スタッフへの研修実施
線量の管理と記録
作成のヒント
日本医師会のウェブサイトに指針のモデルだけでなく、スタッフ研修にそのまま使える動画コンテンツまで用意されています。動画を視聴し、修了証を発行する形で研修義務を果たすことができるため、ぜひ活用してください。
参考資料: 日本医師会「診療用放射線の安全利用のための指針」
(4) 医薬品の安全使用のための業務手順書:投薬ミスを防ぐ具体的なルールブック
医薬品の採用から廃棄までの各段階で、「誰が」「何を」「どのように」行うかを定めた具体的なマニュアルです。特に、投与時の患者確認や、ハイリスク薬の管理方法は明確に規定する必要があります。
盛り込むべき主要項目
医薬品の採用・購入・保管のルール
処方・調剤・与薬時の確認手順
ハイリスク薬の安全管理方法
医薬品に関する事故発生時の対応
作成のヒント
平成30年改訂版のマニュアルでは、各クリニックの状況に合わせて項目を削除・追加することが推奨されています。自院で採用している医薬品リストを添付したり、電子カルテでの処方手順を加えたりするなど、業務フローに合わせてカスタマイズしましょう。
参考資料: 日本医師会「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル
(5) 検体検査業務の精度確保:院内検査の「質」を担保する
インフルエンザの迅速検査キットや血糖測定器など、院内で検体検査を行う場合に、その精度を確保するための体制整備が求められます。
求められること
精度確保責任者の設置(医師で可)
標準作業書の作成・整備
作業日誌(台帳)の作成・整備
作成のヒント
難しく考える必要はありません。日本医師会の手引きでは、検査機器や診断薬キットの添付文書や取扱説明書を「標準作業書」として活用し、日々の精度管理(キャリブレーション等)の結果を記録する簡便な「作業日誌」を運用する方法が示されています。
参考資料: 日本医師会「医療機関における検体検査業務の精度確保に向けた手引き」
(6) 医療機器に係る安全管理のための体制確保:機器の不具合から事故を防ぐ
生命維持管理装置(AEDなど)や特定保守管理医療機器を保有する場合、安全に使用するための体制確保が必要です。
求められること
医療機器安全管理責任者の設置
スタッフへの研修実施
医療機器の保守点検計画の策定と実施
安全使用に関する情報収集と改善策の実施
作成のヒント
「保守点検計画」がキモとなります。厚生労働省や関連団体が機器ごとの指針を出しています。まずは自院にある対象機器をリストアップし、「誰が」「いつ」「何をするか」を定めた一覧表を作成することから始めましょう。
参考資料: 厚労省「医療機器に係る安全管理のための体制確保に係る運用上の留意点について」
■ まとめ:指針はクリニックを守る「お守り」
6つの指針をご紹介しましたが、最初から完璧なものを目指す必要はありません。まずは日本医師会などが提供するモデル(雛形)をダウンロードし、自院の状況に合わせて少しずつ書き換えていくことから始めてみてください。
そして、最も大切なのは、作成した指針を棚に眠らせず、スタッフ全員で共有し、定期的に見直すことです。指針は、日々の業務の中で実践されて初めて意味を持ちます。
これらの取り組みは、クリニックの安全性を高め、患者さんからの信頼を確固たるものにします。また保健所の立入検査や厚生局の個別指導の際には指針の有無や内容をチェックされることになりますので日々の整備が必要です。そして起きてはなりませんが、医療事故や医療過誤があった場合に、これらの指針がなかった場合のことを考えると…。そうならないためにも、そして予防のためにも作成して周知しておくことが必要です。
