2026/4/29

お知らせ

【クリニックの先生方へ】ベースアップ評価料の届出、まだ間に合います ― スタッフ定着のための一手を

参考:令和8年度診療報酬改定におけるベースアップ評価料等について(厚労省HP)


はじめに:人手不足の今こそ「賃上げ」が経営課題

医療現場の人手不足は年々深刻さを増しています。看護師や事務職員の採用難、離職、求人広告費の高騰…。多くの無床診療所で「人を集めて、辞めさせない」ことが最重要課題になっているのではないでしょうか。

そんな中、令和6年度改定で創設されたベースアップ評価料は、令和8年度改定でさらに使いやすく整備されました。「賃上げの原資を診療報酬で確保できる」という、診療所にとって貴重な仕組みです。

本記事では、届出に必要な3つの様式(95・96・98)と、「注5」付きの高い点数を取るためのポイントをご紹介します。


キーワードは「注5」― 点数が高くなる特例

令和8年度改定では、外来・在宅ベースアップ評価料「注5」が付くと点数が高くなる仕組みが導入されました。この注5を取れるかどうかで、診療所が得られる賃上げ原資が大きく変わります。

注5が算定できるのは、次の2パターンです。

パターンA:R8.3月以前からすでにベア評価料を算定している診療所

→ 自動的に注5の対象になります。これまでの算定実績が評価され、R8.6からは高い点数を算定できます。

パターンB:これから新規に算定するが、過去に賃上げ実績がある診療所

→ 様式98を届け出ることで注5の対象になります。

ここがポイントです。「うちはまだベア評価料を算定していないから関係ない」と思っている診療所でも、過去に賃上げをしていれば注5を取れる可能性があります。

具体的には、R6年度〜R8年度にかけて計5.5%(事務職員は8%相当)の賃上げ実績を示せれば、R8.4月以降の新規算定でも注5付きの高い点数を算定できるのです。

💡 「賃上げを頑張ってきた診療所が報われる」仕組みになっています。届出をしないと、その努力が点数に反映されません。


ベースアップ評価料を支える3つの様式

届出様式は、診療所の状況に応じて最大3種類が必要になります。それぞれが診療所の賃金構造のどこを表すかをイメージで示すと、次のようになります。

様式

記載内容

対応する賃金の範囲

様式95

金額の記載は不要(簡素化)

様式96

②月額賃金総額(1か月あたり)を記載

基本給+各種手当(超過勤務・休日・宿日直・通勤手当 など)

様式98

①基本給等総額(1か月あたり)を記載

基本給・扶養手当・住居手当・地域手当 など毎月決まって支払われる給与

つまり、様式95は基本様式で金額計算が不要様式96・98は具体的な金額を積み上げて記載する形になっています。


様式95:「届出のハードルが大きく下がった」最重要様式

今回の改定で特筆すべきは、様式95では金額の記載が不要になったことです。

これまで「計算が面倒」「給与計算ソフトとの突合が大変」と届出を諦めていた診療所も少なくないと聞きます。しかし、ほぼすべての無床診療所が様式95だけで基本届出が可能となり、事務負担は大幅に軽減されました。

💡 「忙しくて手が回らない」を理由に届出を見送るのは、もうもったいない時代です。


様式96:ベア評価料(Ⅱ)で賃上げ原資を確実に

ベア評価料(Ⅰ)だけでは賃上げ原資が大きく不足する診療所では、ベア評価料(Ⅱ)を併せて算定できます。これに必要なのが様式96です。

月額賃金総額(基本給+諸手当)を1か月あたりで記載します。記載項目は増えますが、賃上げ原資の不足分を補う重要な収入源となります。


様式98:「過去の賃上げ実績」を高い点数に変える鍵

ここが今回の改定で見落とされがちな最大のポイントです。

様式98は、R6年度〜R8年度に計5.5%(事務職員は8%相当)の賃上げ実績がある診療所が提出することで、「注5」付きの高い点数を算定できる様式です。

重要なのは、R8.3月以前からベア評価料を算定していたかどうかは関係ないということ。

  • これまでベア評価料を算定していなかった診療所でも

  • R8.4月・5月・6月以降に新規算定を始める診療所でも

過去に賃上げを行ってきた実績さえ示せれば、注5の高い点数を取れます。

「賃上げはコツコツやってきたけれど、ベア評価料の届出はまだ…」という診療所は、この機会に様式98の提出を強く検討する価値があります


賃上げは「コスト」ではなく「投資」

賃上げを単なる人件費増と捉えると経営は苦しく感じますが、視点を変えれば話は変わります。

  • 採用コストの削減:1人の中途採用にかかる費用は数十万〜100万円超。離職を防げばこの費用が浮きます

  • 教育コストの保全:育成済みのスタッフが辞めると、また一から教育が必要に

  • 診療の質の安定:ベテランスタッフの定着は患者満足度に直結します

  • 求人時の競争力:近隣の診療所より給与水準が高ければ、応募は確実に増えます

ベースアップ評価料は、これらの好循環を生み出すための国が用意した賃上げ原資です。受け取らない手はありません。


ただし注意点 ― 「届出の先」に待つ報告業務

ここまで届出のメリットをお伝えしてきましたが、最後にぜひ知っておいていただきたい注意点があります。

ベースアップ評価料は、「届けて終わり」ではない制度です。算定後には中間報告実績報告が義務付けられており、ここで求められるのは届出時よりずっと詳細な数字です。

報告業務でつまずきやすいポイント

特に実績報告では、基本給等総額を「職種ごと」に算出する必要があります。

  • 看護職員(看護師・准看護師)

  • 医療事務職員

  • 看護補助者

  • その他のコメディカル …など

それぞれについて「基本給・扶養手当・住居手当・地域手当などの合計が前年と比べていくら増えたか」を集計しなければなりません。

加えて、

  • どの手当が「基本給等」に含まれるのか

  • 夜勤手当、通勤手当、賞与の取り扱い

  • 途中入職・退職者の扱い

  • 最新の疑義解釈への対応

…といった専門的な判断も求められます。

だからこそ「社労士など専門家への依頼」を

届出のハードルは確かに下がりました。しかし報告業務の負担は決して軽くありません。院長先生や事務職員が診療の合間に格闘するには、荷が重いケースも多いのが実情です。

そこでお勧めしたいのが、社会保険労務士(社労士)など専門家への依頼です。

  • ✅ 給与計算データから報告書まで一気通貫で対応できる

  • ✅ 制度改定や疑義解釈に常時キャッチアップしている

  • 院長・事務職員の本来業務(診療・患者対応)を守れる

  • ✅ 万一の確認時にも根拠を示しやすく安心

特に、職員数が多い診療所、様式96・98も提出する診療所、過去の賃上げ実績を「注5」につなげたい診療所は、専門家への依頼を強く検討する価値があります。

報告ミスによる返還リスクや、本来取れたはずの「注5」の取り逃しを考えれば、専門家への依頼費用は十分にペイする「保険」といえるでしょう。


まとめ:賢い診療所は「届出の先」まで見据えている

フェーズ

難易度

お勧めの対応

届出(様式95中心)

⭐ 簡素化された

自院でも対応可能

中間報告

⭐⭐⭐ そこそこ大変

社労士への相談を

実績報告(職種別集計)

⭐⭐⭐⭐ かなり大変

専門家依頼を強く推奨

「事務が大変だから」と届出を諦めるのは、もう過去の話。 様式95は記載が大幅に簡素化され、ほとんどの診療所がスムーズに届出できます。

そして、これまでベア評価料を算定していなかった診療所でも、様式98を一緒に届け出ることで「注5」付きの高い点数を獲得できる可能性があります。過去の賃上げ努力を、これからの診療報酬に変えるチャンスです。

ただし、届出の先には報告業務という壁が待っています。 院長先生が診療に専念できる体制を整えるためにも、お付き合いのある社労士の先生にぜひご相談されてみてはいかがでしょうか。

スタッフの待遇改善は、診療所の未来への投資。届出から報告まで万全の体制で、この制度を最大限に活用していきましょう。


※本記事は制度の概要を解説したものであり、実際の届出・報告については地方厚生局の最新の告示・通知をご確認ください。ご不明点は所轄の厚生局またはお付き合いのある社会保険労務士にご相談されることをお勧めします。

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