2026/9/14

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パートの扶養判定は「労働契約の年収」で ── よくある雇用契約書が、そのままでは使えない3つの理由


最低賃金の引上げで、パート従業員の時給が上がる時期です。時給が上がると、パートの方から「扶養を外れないように、シフトを減らしてもらえませんか」と相談される場面が増えます。人手が足りない中で、働ける人に働き控えをされるのは、事業所にとって大きな痛手です。

実は、この扶養の判定方法が令和8年4月から変わっています。扶養に入れるかどうかの年収を「労働契約の内容」で見込めるようになり、残業で一時的に130万円を超えても、原則として取り消されなくなりました。

ところが、パートの雇用契約書によくある「シフト制による」「契約期間6か月」「通勤手当有(金額の記載なし)」という書き方では、この方法が使えません。この記事では、新しい判定の仕組みと、雇う側が労働条件通知書をどう整えればよいかを解説します。


令和8年4月から、扶養の年収は「労働契約の内容」で見込みます

根拠は、厚生労働省保険局保険課長・年金局事業管理課長の通知「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて」(令和7年10月1日付け 保保発1001第3号・年管管発1001第3号)です。運用の詳細は、令和8年3月9日事務連絡のQ&A(第2版)で示されています。

Q&Aは趣旨を、就業調整対策の観点から、被扶養者認定の予見可能性を高めるため、労働契約段階で見込まれる収入を用いて認定する、と説明しています(Q1)。「結局いくらまで働けるのか」を、契約の時点で見通せるようにする仕組みです。

出典:日本年金機構「労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱いについて」(2026年5月1日更新)

従来の判定

令和8年4月からの判定

何で見込むか

過去・現時点・将来の見込みなどから、今後1年間の収入見込みで判定

労働条件通知書等に規定される時給・労働時間・日数等を用いて算出した年間収入の見込額で判定

残業代の扱い

所定外賃金の見込みを含める

労働契約に明確な規定がなく見込み難い時間外労働に対する賃金等(臨時収入)は含まない

ここでいう賃金は労働基準法第11条に規定される賃金で、諸手当及び賞与も含まれます。基本の時給だけで計算するわけではない点に注意してください。

基準額は次のとおりです。

認定対象者

年間収入の基準額

下記以外

130万円未満

60歳以上または障害者

180万円未満

19歳以上23歳未満(被保険者の配偶者を除く)

150万円未満

なお、年収が基準額未満であることに加えて、同一世帯なら被保険者の年間収入の2分の1未満、別世帯なら被保険者からの援助額より少ないことも必要です。この点は従来と変わりません。

この取扱いが使えるのは、給与収入のみの方です。年金や事業収入など他の収入がある場合は、従来どおりの判定になります。提出書類は、労働条件通知書等の労働契約の内容が分かる書類と、認定対象者本人の「給与収入のみである」旨の申立てです。

適用されるのは、認定日が令和8年4月1日以降となるものです。4月1日より前に遡って認定する場合は、従来の取扱いになります(Q10)。

なお、社会保険の130万円は、税の年収の壁とは別の基準です。従業員から相談を受けたときは、どちらの話なのかを最初に切り分けてください。


残業で130万円を超えても、原則として取り消されません

新しい取扱いで従業員にとって一番大きいのは、繁忙期に残業が増えても、それだけで扶養を外されない点です。

ケース

取扱い

臨時収入により結果的に130万円以上になったが、社会通念上妥当である範囲に留まる

取り消す必要はない(Q8)

恒常的な時間外労働が判明し、妥当な範囲を超える

認定時に瑕疵はないため遡らず、「被扶養者の認定の適否に係る確認を行った日」以降に削除(Q8-2)

臨時収入を前提に賃金や労働時間を不当に低く記載していた場合等、妥当な範囲を超えて大きく上回る

取り消して差し支えない(Q8)

通知書等・申立書の記載誤り等、認定時に瑕疵がある

認定時に遡って取り消す(Q8-3)

「社会通念上妥当である範囲」がいくらまでかは、示されていません。具体的な金額を示すと新たな「年収の壁」になりかねない等の理由で、一概に示すことは困難とされています(Q8-4)。一時的な収入変動かどうかを確認するため、保険者が「年収の壁・支援強化パッケージ」の事業主証明の提出を求めることもあります。

ここで事業所に気をつけていただきたいのは、扶養に収めるために契約上の労働時間を実態より少なく書くことです。表のとおり、不当に低い記載や記載誤りは取消しの対象になります。契約書には、実際に予定している時間と日数を書いてください。

認定後の確認は、1年以内は不要です。2年目以降は少なくとも年1回、保険者が確認し、その時点の最新の労働条件通知書等の提出を求めます。認定から1年経過後は、実際の収入との乖離を確認するため、給与明細書・課税証明書等を求めても差し支えないとされています(Q7)。


よくある雇用契約書が、そのままでは使えない3つの理由

Q&A(Q2-2)と日本年金機構の案内(2026年5月1日掲載)は、次の場合は労働契約の内容では判定できず、従来どおり給与明細書、課税(非課税)証明書等で判定するとしています。パートの雇用契約書は、この3つに当てはまりやすいのです。

理由1 「シフト制による」では労働時間が分からない

小売・飲食・介護・医療など、勤務日をシフト表で決める職場では、契約書の労働時間欄を「シフト制による」とだけ書いている例をよく見かけます。労働時間の記載が不明確だと、年間収入を計算できません。

理由2 「契約期間6か月」では1年に届かない

有期契約を6か月ごとに更新している事業所は少なくありません。しかし、被扶養者(異動)届の「被扶養者になった日」から起算して、通知書等上の契約期間が1年未満だと、この方法は使えません。起算点は契約の開始日ではなく「被扶養者になった日」です。

理由3 「通勤手当有」では金額が分からない

手当欄に「通勤手当有」とだけ書き、金額を書いていない契約書も多くあります。前述のとおり賃金には諸手当も含まれるため、手当の金額が不明確だと判定できません。

複数の事業所で働く方は、各事業所の通知書等で個別に算定して合算します。いずれかで算定できない場合(一部しか提出がない場合を含む)は、従来どおりの判定になります(Q2-3)。掛け持ち先の契約書が不十分でも同じ結果になる点は、従業員に伝えておくとよいでしょう。


契約を更新するたびに、書面が必要です

契約の更新や労働条件の変更があったときは、その内容に関わらず、内容が分かる書面等の提出が求められます(通知項番2・Q9)。時給や日数に変動がない、単なる期間の更新でも同じです。

被扶養者(異動)届を出すのは、扶養している家族(被保険者)で、その勤務先の事業主を経由して提出します。パートを雇う事業所は届を出す立場ではありません。事業所の役割は、判定に使える労働条件通知書等を従業員に交付することです。更新のたびに書面を渡していなければ、従業員は家族の勤務先に出すものがありません。


106万円(社会保険の加入要件)とは別の話です

扶養の130万円と、従業員本人が勤務先の社会保険に加入するかどうかの106万円は別物です。短時間労働者の賃金要件(月額8.8万円)は撤廃予定と日本年金機構・厚生労働省が案内しており、企業規模要件も令和9年10月以降段階的に縮小されます。勤務先で本人が社会保険に加入すれば、扶養の130万円は関係なくなります。加入要件の変更については、過去の記事「社会保険適用拡大_賃金要件廃止」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

なお、本人が第3号被保険者から外れ、勤務先の厚生年金にも加入しないときは、市区町村の国民年金窓口で第1号被保険者への手続きが必要です。


労働条件通知書の見直しチェックリスト

次の4点を、パート従業員の労働条件通知書で確認してください。

チェック項目

使えない書き方の例

見直しの方向

労働時間・日数を明記しているか

「シフト制による」のみ

1日の労働時間と、週または月の労働日数を数字で書く

契約期間が1年以上か

「契約期間6か月」

扶養の判定に使う従業員は、契約期間を1年以上にできるか検討する

手当を金額で書いているか

「通勤手当有」

手当ごとに金額を書く

更新・変更のたびに書面を渡しているか

自動更新で書面なし

期間更新だけの場合も、そのつど書面を交付する

なお、判定を行うのは保険者です。


まとめ

令和8年4月から、パート従業員の扶養は労働契約の内容で見込んだ年収で判定できるようになり、残業で一時的に130万円を超えても、社会通念上妥当な範囲なら取り消されません。

ただし「シフト制による」「契約期間6か月」「通勤手当有」の契約書では、この方法が使えず、従来どおりの判定に戻ります。従業員が安心して働ける状態をつくれるかどうかは、雇う側の労働条件通知書の書き方にかかっています。働き控えを減らすことは、そのまま人手の確保につながります。

「うちの雇用契約書で判定に使えるか見てほしい」「シフト制の従業員の書き方をどうすればよいか」といったご相談がありましたら、お気軽にお声がけください。労働条件通知書のひな型の見直しから、更新時の運用づくりまで、まとめてお引き受けいたします。


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