2026/10/5

お知らせ

パート本人の社会保険料が3年間軽くなる「保険料調整制度」── 被保険者50人以下の事業所こそ使える令和8年10月の新制度

参考: 日本年金機構「保険料調整制度とは」


「社会保険に入れると手取りが減るから、シフトを減らしてほしい」

パートの方からこう言われて、人手が足りないのに働き控えをされる。適用拡大の話をするときに、必ず出てくる壁です。

令和8年10月から、この壁を低くする制度が始まりました。保険料調整制度といいます。短時間労働者の社会保険料の本人負担を、通算3年間にわたって軽くする仕組みです。しかも、最終的に事業主が納める保険料は増えません。

あまり知られていませんが、使えるのは主に被保険者50人以下の事業所です。規模が小さいほど関係のない話に見えて、実は逆です。

1. どういう制度か

短時間労働者が新たに社会保険に加入するとき、事業主が本人負担分の一部を一時的に肩代わりします。肩代わりした額は、3か月後の保険料額から差し引かれる形で事業主に戻ります。

つまり、お金の流れは次のようになります。

日本年金機構「保険料調整制度」パンフレット
(図は年金機構の資料(健康保険料率を10%として計算した全国向けの例)です。協会けんぽ山梨支部の令和8年度料率9.55%で計算すると、次の額になります。)

年金機構は「最終的に事業主が納付する保険料は増えません」と明記しています。事業主の負担が純粋に増えるわけではなく、3か月分を立て替える形です。

もう一点大事なのは、本人の保険料が軽くなっても「制度を利用し、被保険者の保険料が軽減されても、被保険者が将来受け取る年金額は減りません」とされていることです。標準報酬月額そのものは下げないので、年金記録も傷病手当金なども通常どおりです。安くなる代わりに給付が削られる制度ではありません。

2. いくら軽くなるのか

軽減割合は標準報酬月額の等級ごとに決まっており、1〜2年目と3年目で変わります。

標準報酬月額

1〜2年目

3年目

88,000円以下

25%

12.5%

98,000円

20%

10%

104,000円

14%

7%

110,000円

9%

4.5%

118,000円

5%

2.5%

126,000円

2%

1%

計算式は「保険料軽減額=標準報酬月額×保険料率×保険料軽減割合」です。端数が出たときは小数点第一位を四捨五入します。

ここで読み間違えやすいのが、この%が何にかかるかです。折半後の本人負担額ではなく、保険料の全額にかかります。

厚生年金保険(料率18.3%)で標準報酬月額88,000円の方を例にすると、次のとおりです。

金額

保険料の全額

16,104円

本来の折半額(本人)

8,052円

軽減額(88,000円×18.3%×25%)

4,026円

軽減後の本人負担

4,026円

そのときの事業主負担

12,078円

25%の軽減で、本人負担はちょうど半分になります。3年目は12.5%なので、軽減額は2,013円、本人負担は6,039円です。

健康保険料も同じ計算です。協会けんぽ山梨支部の令和8年度の健康保険料率9.55%で計算すると、全額8,404円、本来の折半額4,202円、軽減額2,101円で、本人負担は2,101円になります。

厚生年金と健康保険を合わせると、本人負担は月12,254円から6,127円へ。月6,000円強、年間で7万円以上の差です。働き控えの相談を受けたときに出せる数字としては、十分な大きさだと思います。

なお、この健康保険の計算には介護保険料率(全国一律1.62%・40歳から64歳の方)と、令和8年4月分から加わった子ども・子育て支援金(全国一律0.23%)を含めていません。これらが軽減の対象に含まれるかどうかは、年金機構の公表資料に明記がありません。該当する方の試算を出す場合は、年金事務所に確認してからにしてください。

3. 使える事業所

ここがこの制度のいちばん分かりにくいところです。「令和8年10月から始まった」と聞くと全事業所が対象のように読めますが、そうではありません。

対象

時期

任意特定適用事業所になった事業所

令和8年10月1日〜令和17年9月30日

適用拡大で特定適用事業所になる事業所(被保険者36〜50人)

令和9年10月〜

同(21〜35人)

令和11年10月〜

同(11〜20人)

令和14年10月〜

同(10人以下)

令和17年10月1日

厚生年金の被保険者が51人以上になった個人事業所

令和9年10月1日〜令和17年9月30日

逆に、対象外になるのは次の2つです。令和8年10月1日時点ですでに特定適用事業所となっている事業所と、対象要件に該当する前に被保険者が常時51人以上となった事業所です。

要するに、すでに51人以上で適用拡大の対象になっている事業所は使えません。令和8年度に使えるのは、50人以下の事業所が自分の意思で任意特定適用事業所になった場合だけです。

任意特定適用事業所とは、被保険者が50人以下で適用拡大の対象ではない事業所が、働く人の同意を得て、自ら短時間労働者を社会保険に加入させる仕組みです。届書は「健康保険・厚生年金保険 任意特定適用事業所申出書」で、同意の要件は次の3つのいずれかです。

同意対象者の過半数で組織する労働組合の同意がある場合、同意対象者の過半数を代表する者の同意がある場合、または同意対象者の2分の1以上の同意がある場合。ここでいう同意対象者は「厚生年金保険の被保険者、70歳以上被用者、短時間労働者」です。

一度なった任意特定適用事業所をやめるときは、同意対象者の4分の3以上の同意が必要です。入るときより重い要件になっているので、順番としては先にやめる側の条件を説明しておくほうが安全です。

4. 対象になる人、ならない人

対象になるのは、短時間労働者として健康保険・厚生年金保険に加入する被保険者のうち、標準報酬月額が126,000円以下の方です。

短時間労働者は「1週間の所定労働時間または、1月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満である方のうち、週の所定労働時間が20時間以上かつ、学生ではない方」と定義されています。フルタイムの従業員は対象になりません。

一方、次の方は対象外です。

対象外

70歳以上で任意加入している被保険者(厚生年金保険に限る)

複数の事業所で加入している被保険者

産前産後休業・育児休業期間中で保険料が免除されている被保険者

そしてもう一つ、見落とせない決まりがあります。「希望した一部の対象被保険者のみ制度を利用することはできません」。制度を使うと決めたら、対象になる方は全員が対象です。誰を入れて誰を外すかという選択はできません。

5. 手続きと期限

提出するのは「保険料調整開始申出書」です。

期限は決まっています。任意特定適用事業所となった日から2年を経過した日が属する月の前月までです。2年あると思うと忘れますが、ここを過ぎると使えなくなります。

もう一つ注意すべきなのが、軽減される3年間の数え方です。「事業所が制度の利用を申し出た月から通算3年間」です。任意特定適用事業所になった月からではありません。申出が遅れれば、軽減が始まる月もそのまま後ろにずれます。早く出して損をすることはないので、適用拡大を決めたら同時に出してしまうのが実務的です。

6. 実務で引っかかりやすい4点

ここまでが制度の中身です。顧問先に説明するときに確認しておきたいのは、次の4点だと考えています。

第一に、事業主の負担は最終的に増えませんが、3か月は立て替えになります。保険料は毎月口座振替で出ていくので、人数が多い事業所では一時的な資金の持ち出しになります。「負担は増えません」だけを伝えると、振替額が上がった月に問い合わせを受けます。

第二に、任意特定適用事業所になるには同意が必要で、しかもやめるときは4分の3以上です。保険料調整制度は3年で終わりますが、適用拡大そのものは終わりません。3年後、軽減がなくなった状態で加入が続くことを、同意を取る段階で説明しておく必要があります。ここを飛ばすと、4年目に苦情になります。

第三に、軽減幅は等級が上がると急に小さくなります。88,000円で25%だったものが、110,000円で9%、126,000円で2%です。最低賃金の引上げや賃上げで標準報酬月額が上がると、軽減もしぼみます。「3年間ずっと半額」ではありません。

第四に、この制度は手取りの問題を緩めるものであって、扶養の判定とは別の話です。年収の壁の相談では、どの壁の話をしているのかを先に切り分けてください。労働契約の内容で年収を見込む扶養判定の扱いは令和8年4月から変わっており、当事務所の別の記事で解説しています。

まとめ

被保険者50人以下の事業所にとって、適用拡大は「いずれ来るもの」でした。令和8年10月からの3年間は、本人負担を軽くした状態で先に移行できる期間です。令和9年10月に36〜50人規模が適用拡大の対象になりますから、その規模の事業所は特に、前倒しで動く意味があります。

判断に必要なのは、対象になる短時間労働者が何人いて、それぞれの標準報酬月額がどの等級に入るか、という計算です。軽減額が月いくらになるかまで出せば、同意を取る場面で使えます。

同意書の整え方、申出書の作成、3年後を見据えた説明の組み立てまで、まとめてご相談いただけます。


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