2026/8/31

備忘録

10月1日からカスハラ対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務になります【注意】看護実習生も対象です 

参照:厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」
※詳細版リーフレットもこのページから辿れます


2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策と、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務になります。これまで「望ましい取組」だったものが法律上の措置義務に格上げされます。準備できるのは9月の1か月だけです。

そして医療機関は、この改正でとくに当事者になりやすい立場にあります。厚生労働省のリーフレットは、対象となる「顧客等」の例示に病院を明記しています。さらに、看護実習生の受け入れがもう一つの義務にかかることは、まだあまり知られていません。


何が義務になるのか

カスタマーハラスメントは労働施策総合推進法、求職者等に対するセクシュアルハラスメントは男女雇用機会均等法に規定が置かれ、いずれも2026年10月1日に施行されます。指針は2026年2月26日に公布されました。カスタマーハラスメントが令和8年厚生労働省告示第51号、求職者等に対するセクシュアルハラスメントが同第52号です。

大切なのは、企業規模による猶予や適用除外が置かれていないことです。パワーハラスメントのときは中小企業に2年の猶予がありましたが、今回はありません。無床のクリニックでも、職員が数名の事業所でも、期日は同じです。

このうちカスタマーハラスメントについて講じなければならない措置は、5つの柱に整理された10項目です。求職者等に対するセクシュアルハラスメントは項目数も中身も違いますので、そちらは後ろで触れます。

講ずべき措置

事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

① カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する

② カスタマーハラスメントの内容及びあらかじめ定めた対処の内容を、労働者に周知する

相談体制の整備

③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する

④ 相談窓口担当者が、適切に対応できるようにする

事後の迅速かつ適切な対応

⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認する

⑥ 被害者に対する配慮のための措置を行う

⑦ 再発防止に向けた措置を講ずる

対応の実効性を確保するために必要なカスタマーハラスメントの抑止のための措置

⑧ 特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する

そのほか併せて講ずべき措置

⑨ 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する

⑩ 相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する

②の「あらかじめ定めた対処の内容」の例として、リーフレットは、管理監督者に指示を仰ぐ、可能な限り一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部等へ情報共有を行う、を挙げています。院内で言えば、受付職員が誰にどう繋ぐかを決めておく、という話です。

このうち⑧は、ほかのハラスメント対策には無かった項目です。方針をあらかじめ定めておくことが要件で、その場の判断に委ねてはいけない、という組み立てになっています。

この義務に直接の罰則は置かれていません。ただし措置を講じていなければ都道府県労働局の指導等の対象になりますし、実務で重いのは行政指導よりも、職員が被害を受けたときの安全配慮義務違反と労災の問題です。


「顧客等」に病院の利用者が明記されています

リーフレットは「顧客等」を、顧客、取引の相手方、施設(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等)の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者、と説明しています。病院が例示に入っている以上、医療機関は解釈の余地なく対象です。

範囲は患者本人にとどまりません。ご家族や付添いの方も含まれます。厚生労働省が2026年4月24日に示した解釈事項では、まだ受診しておらず契約関係のない方も「顧客等」に当たり、今後患者になることが想定されない近隣にお住まいの方からの言動も該当し得る、とされています。電話やSNSなどインターネット上の言動も対象です。

医療機関で起こりやすいのは、順番の割り込みを執拗に求める、保険診療の範囲を超える処置を要求する、診断書を事実と異なる内容で書くよう求める、窓口負担金の減免を迫る、医師名をインターネットに書き込むと告げる、閉院後も退去しない、といった場面です。


診療を断ってよいのか ─ 応召義務との関係

医療機関からいちばん多く出るのがこの質問です。答えは、そう単純ではありません。

医師法第19条第1項は、診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ拒んではならないと定めています。迷惑行為があったという事実だけで、ただちに診療を拒否してよいことにはなりません。

一方で厚生労働省の通知「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(令和元年12月25日 医政発1225第4号)は、患者の迷惑行為により診療の基礎となる信頼関係が損なわれている場合には、新たな診療を行わないことが正当化されるという考え方を示しています。判断の軸は、迷惑行為があったかどうかではなく、信頼関係がすでに失われているといえるかどうかです。

ここで分けて考えていただきたいのが、職員を守る措置と、診療を断るかどうかの判断は別物だということです。複数名で対応する、記録する、警告する、犯罪に当たり得る言動は警察へ通報する。これらは応召義務とは別に当然に実施できますし、10月からは実施しなければならない措置です。診療そのものを断るかどうかだけを応召義務の枠組みで別途判断する。この順序にすると現場が迷いません。

個別の判断は事情によって変わりますので、迷う場面では顧問弁護士にご相談ください。


見落とされやすいのは、看護実習生です

同じ10月1日から、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策も義務になります。こちらは加害者が自院の職員、被害者が社外の方という逆向きの構造です。

そして「求職者等」の範囲に、リーフレットは次を明記しています。教育実習、看護実習その他の実習を受ける者。つまり看護学生の臨地実習を受け入れている医療機関は、採用活動をしているかどうかにかかわらず対象です。医学生の診療参加型臨床実習、薬学生の実務実習も同じです。

実習の現場には構造的なリスクがあります。指導が1対1になること、更衣室や当直室に近い動線を使うこと、夜間の実習があること。そして指導者が評価者を兼ねているため、実習生の側から声を上げにくいことです。

対策として現実的なのは、実習指導を複数名または開放的な場所で行う、更衣室や当直室での指導・面談を行わない、夜間に単独にならない体制にする、評価権限を持つ人と相談窓口を分ける、の4つです。

なお講ずべき措置は11項目で、カスタマーハラスメントの10項目とは中身が違います。カスタマーハラスメントには無いものが3つあり、ここが実務では効きます。

一つ目は、求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化し、職員と求職者等の双方に周知することです。面談の時間と場所の指定、実施体制、やり取りに用いるSNSの種類の指定などが例として挙げられています。実習の指導体制を決めておくことが、そのまま措置になります。

二つ目は、相談窓口を求職者等に周知することです。カスタマーハラスメントの窓口は職員に周知すれば足りますが、こちらは実習生本人に届いていなければ意味がありません。

三つ目は、行為者に対する措置を適正に行うことです。加害者が自院の職員なので、カスタマーハラスメントには無いこの項目が入ってきます。

逆に、カスタマーハラスメントにあった悪質行為の抑止のための措置は、こちらにはありません。実習生に「困ったことがあればここに」と示せる状態になっているか、9月中に確認してください。


就業規則を必ず変えなければならないわけではありません

「10月までに就業規則を改定しないと違法になる」という言い方を耳にしますが、正確ではありません。

前述の解釈事項は、信用失墜行為や服務規律違反に対する懲戒規定等の既存の規定に基づいて必要な措置を講ずることが可能である場合には、必ずしも就業規則等を改正してカスタマーハラスメントに係る規定を新たに設ける必要はない、としています。措置義務を果たす手段は就業規則に限られず、方針文、対応マニュアル、規程、研修のいずれでも構いません。

もっとも、規定を新設したほうが対象となる行為は明確になります。服務規律や懲戒規定が抽象的にとどまっている場合は、改定が実質的に必要になります。自院の既存規定を見てから決めるのが順序です。改定するなら条番号に枝番を使えば既存の番号がずれませんし、ほかに改定予定があれば同じタイミングにまとめると、意見聴取と届出が1回で済みます。


9月中にやること

一つ目は、方針を1枚にまとめて職員へ周知することです。毅然として対応し職員を守るという方針と、管理者に指示を仰ぐ、一人で対応させない、犯罪に当たり得る言動は警察へ通報する、の3つが書いてあるだけでも現場の判断は変わります。

二つ目は、相談窓口を決めて周知することです。ほかのハラスメント窓口と一体にしてもよく、逆に一体にする必要もありません。その場ですぐ相談することが適切な場合があるため、管理監督者を相談担当者に定めても差し支えないとされています。

三つ目は、エスカレーションの線を決めておくことです。農林水産省が飲食店向けに出しているガイドラインは、30分以上続く場合、同じ内容が3回以上続く場合には打ち切る、という基準を示しています。業種は違いますが考え方は使えます。線が引いてあれば、職員は自分の判断で切り上げられます。

四つ目は、記録の取り方を決めることです。録音や録画を事実確認に使う場合、個人情報の利用目的として「事実関係の確認に使うことがある」ことを特定し、通知または公表しておく必要があります。プライバシーポリシーに記載しておくのが実務的です。

五つ目は、実習生の受け入れ体制の見直しです。ここが医療機関で最も抜けやすい項目です。


まとめ

10月1日は全事業主に一律に来ます。猶予はありません。

医療機関は「顧客等」の例示に病院が挙がっている以上、真正面から対象です。そのうえで、診療を断ってよいかどうかは応召義務の枠組みで別途判断してください。職員を守る措置はそれとは切り離して当然に実施できます。この2つを混ぜないことが、現場を守るうえでいちばん効きます。

そして看護実習生を受け入れているなら、もう一つの義務がかかります。就業規則は、既存の服務規律と懲戒規定で対応できるかを見てから決めてください。

「うちの規定で足りているのか」「方針文と対応フローをどう作ればよいか」といったご相談がありましたら、お気軽にお声がけください。就業規則の点検から、方針文・対応フロー・相談受付票の整備まで、まとめてお引き受けいたします。


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