2026/10/19

お知らせ

新規個別指導、返すのは指摘された1件ではありません ── 事前提出から自主返還まで

出典 関東信越厚生局「個別指導・新規個別指導に係る事前提出書類について」(様式のExcelと別添1「保険医療機関の現況」)  


前編(information48「【新規開業クリニック必見】厚生局の『新規個別指導』とは?目的・流れ・指摘事項を徹底解説」)で、新規個別指導の結果は4つに分かれ、そのうち「経過観察」が全体の約7割だと書きました。

ここで安心した方に、続きをお伝えします。

経過観察は「お咎めなし」ではありません。指摘があれば、返還金同意書を書くことになります。そして返すのは、指導で見てもらった10名のうちの指摘された1件ではありません。

1. 通知には、3つの期限が書いてある

前編では、通知が実施日の約1か月前に届き、1週間前に患者10名が指定されると書きました。実はこの2つの間に、もう一つ期限があります。

事前提出書類の提出期限です。

日

実施日から

何があるか

通知の発出

約1か月前

郵送で届く

事前提出の期限

約3週間前

別添1「保険医療機関の現況」と連絡票をメールで提出

対象患者の連絡

1週間前

10名分が指定される

実施当日

当日

開始15分前までに会場入り

通知が届いてから事前提出まで、実質2週間です。

そして順番が逆です。当日の準備は、指定された10名分のカルテを揃える作業で、1週間あればできます。事前提出のほうが重いのに、先に来ます。

2. 様式がない書類が3つある

別添1「保険医療機関の現況」は8項目です。様式1から4は厚生局のホームページにExcelがあり、しかも「指定様式の各項目が記載されているものであれば、既存の資料で差し支えありません」と書かれています。職員名簿や保険医の一覧があれば、それで足ります。

問題は次の3つです。様式がありません。白紙から作ります。

項番

内容

何をするか

5

受付から会計までの診療業務等の流れ図と、診療報酬請求業務の流れ図

誰が何をどの順でやっているかを聞き取って図にする

6

保険外負担一覧表

文書料・診断書・予防接種・健診など、保険外でいただいている費用を一覧にする

7

委託業務一覧表

検体検査・滅菌消毒・患者給食・医療機器保守のほか、清掃、医療廃棄物、レセプト外注、電子カルテ保守まで。通知は「ほか全ての委託業務を含む」としている

6は掲示しているはずの金額を整理すれば形になります。ただし掲示と実際の運用がずれていると、ここで表に出ます。

7は契約書を引っ張り出して数えることになります。「全ての委託業務」なので、医療法施行規則に定めるものだけでは足りません。

この3つに手をつけるのが提出日の3日前だと、間に合いません。

3. 電子カルテは、規程を作っただけでは足りない

様式1の「電子カルテの導入」を「有」にすると、記入欄が開きます。

欄

書かされること

運用管理規程

定めていない/定めている(制定年月日を記入)

アクセス権限

無制限/一部制限/閲覧のみ

ID付与

個別/共用/一部共用

パスワード管理

桁数、自主的に変更、定期的に変更(何か月)

追記・書換・削除

可能(更新履歴の有無)/不可能

記録の確定処理

マニュアル確定/自動確定(何時間後・何日後)

運用管理規程は添付します。制定年月日を書かせる構造なので、直前に作ったことは分かります。

さらに当日の持参物に、これとは別の項目があります。

電子カルテのシステムに係る、監査の実施状況がわかる資料

アクセスログを定期的に確認している記録のことです。規程を作っただけでは足りず、規程に沿って運用した記録まで求められます。

4. ここが、いちばん焦るところです

当日の持参物のうち、診療録についてこう書かれています。

訂正、修正、削除された記録を含めてプリントアウトしてください。

現在の画面を印刷するのではありません。更新履歴まで出します。

つまり、通知が届いてから気づいて書き足しても、書き足したことが分かります。日付も残ります。

カルテ記載は、指導の前に作れる書類ではありません。これが事前提出書類との決定的な違いです。流れ図や一覧表は今から作れますが、3か月前の診療録は今から作れません。

5. 対象患者10名は、思ったより重い

前編で「診療所は10名分」と書きました。その10名の範囲が、通知にこう定められています。

別途連絡する患者の初診時以降のすべての記録(自費診療分を含む)とします。なお、初診時とは直近の初診の日を指すものではなく、貴保険医療機関に初めて受診した日を指します。

直近の初診ではありません。その患者が最初にかかった日からの全部です。開院当初から通っている方が1人でも含まれていれば、その1人で数年分になります。

量が膨大になる場合は厚生局に相談できる旨も書かれています。黙って徹夜で印刷するものではありません。

6. 自主返還は、指摘された1件では終わりません

ここが本題です。

指導で見られるのは10名です。しかし指摘された内容は、その10名に限った話ではありません。

たとえば「機能強化加算を算定しているが、他の医療機関の受診状況と処方されている医薬品を把握し、服薬管理を行ったことが診療録に記載されていない」と指摘されたとします。

これは1人分の書き忘れでしょうか。違います。記載する運用になっていないなら、算定している全員が同じ状態です。

だから指導のあと、同じ算定をしている他の患者についても自主点検を求められます。対象の範囲は厚生局との協議で決まりますが、「指摘された1件だけ返して終わり」にはなりません。

金額は、単価ではなく件数で決まります。

加算・管理料

1回あたり

月100件なら

月300件なら

機能強化加算(初診料 注10)80点

800円

8万円

24万円

特定疾患療養管理料(診療所)225点

2,250円

22.5万円

67.5万円

外来感染対策向上加算(初診料 注11)6点

60円

6,000円

1.8万円

機能強化加算を月300件算定していれば、月24万円です。半年で144万円、1年で288万円になります。

1回800円の加算だから大したことはない、とはなりません。算定していること自体は正しくても、記載が揃っていなければ、その全部が対象になります。

そして怖いのは、記載の不備が「1人だけ」では起きないことです。運用として書いていないなら、全件が同じ状態です。

7. 届出が要らない管理料ほど危ない

特定疾患療養管理料には、届出がありません。施設基準はありますが、満たしていればよく、厚生局に届け出る必要がないと通知に明記されています。

届出がないということは、受理も審査もないということです。要件を満たしていなくても、誰も指摘しません。

指摘されるのは、個別指導のときです。そして遡ります。

同じ構造のものが、ほかにもあります。

管理料・加算

届出

要件になっている記載

特定疾患療養管理料

不要

管理内容の要点を診療録に記載する(通知(6))

機能強化加算

必要

他の医療機関の受診と処方薬を把握し、服薬管理を行ったことを診療録に記載する

生活習慣病管理料

不要(充実管理加算は必要)

療養計画書の交付と写しの添付、4か月に1回の交付

届出をして受理されたから大丈夫、ではありません。受理は書類審査であって、要件を満たしている証明ではありません。

8. 今日からできること

新規個別指導は、新たに保険医療機関の指定を受けた医療機関を対象に、指定から概ね1年以内に全件実施されます。来るか来ないかではなく、いつ来るかです。

通知を待たずに、今日できることがあります。

やること

なぜ今か

算定している加算・管理料を一覧にする

届出の有無ではなく、算定しているものを全部並べる。届出不要のものが抜けやすい

そのうち「診療録に記載すること」が要件になっているものを拾う

記載要件は通知に書いてある。算定開始のときに読み飛ばされやすい

直近1か月のカルテを10件だけ抜き取って、その記載があるか見る

10件で揃っていないなら、全件が同じ状態

揃っていなければ、今日から記載の型を決める

過去は直せないが、今日から先は直せる。指導までの期間が長いほど、揃っている月が増える

4つ目が重要です。遡って書き足すことはできませんが、今日から書き始めることはできます。指導が半年後なら、半年分は揃った状態で迎えられます。

まとめ

前編で書いた「経過観察が約7割」は、裏を返せば、3割は再指導か要監査だということです。そして経過観察でも、指摘があれば返還は生じます。

押さえること

中身

期限は3つ

事前提出(約3週間前)が最も重く、最も早い

作れる書類と、作れない書類がある

流れ図や一覧表は今から作れる。診療録は作れない。更新履歴ごと提出する

返還は件数で決まる

1回800円でも、月300件なら年288万円。記載の不備は全件に共通する

届出が要らないものほど危ない

受理も審査もないので、指摘されるのは指導のときだけ

通知が届いてからのご相談でも、事前提出には間に合います。ただ、カルテ記載だけは早いほど有利です。

算定している加算と管理料の棚卸しから、記載要件が実際に満たされているかの点検、事前提出書類の作成まで、まとめてお引き受けできます。


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