2026/6/16
備忘録
7月10日締切!算定基礎届(定時決定)の実務チェックリスト──よくある誤りと対象者の確認まで
作成日: 2026-06-16
この時期の社会保険関連の二大イベントは前回取り上げた労働保険料の年度更新と今回の健康保険・厚生年金保険の算定基礎届(定時決定)となります。
算定基礎届は毎年7月に提出が必要な法定手続きですが、対象者の判断や報酬の計算方法を誤ると、従業員の社会保険料が1年間ズレたまま運用されてしまいます。今回は実務担当者がつまずきやすいポイントを整理してお伝えします。
算定基礎届とは──なぜ毎年必要なのか
健康保険・厚生年金の保険料は「標準報酬月額」をもとに計算されます。採用時に決めたこの金額は、その後の昇給や手当変更によって実態と乖離することがあります。そこで毎年一度、4・5・6月の実際の報酬をもとに見直しを行うのが定時決定の仕組みです。
ここで「4・5・6月の報酬」とは、その月に支払われた報酬を指します(支給月基準)。働いた月ではなく、実際に支払われた月が基準です。たとえば末日締め翌月払いの会社では、3月分の給与が4月に支払われるため「4月の報酬」として算入されます。4月分給与は5月支払いで「5月の報酬」、5月分給与は6月支払いで「6月の報酬」となります。時間外手当も同様で、3月の残業代を4月に支払っている場合は4月の報酬に算入します。年度更新の労働保険料は支払いベース(賃金締切日)になるので注意が必要です。締め日・支払日のずれによって、算定に使われる給与の「実態の期間」が会社によって異なる点は実務上見落としやすいポイントです。
根拠法令は健康保険法第40条第1項および厚生年金保険法第21条第1項です。
提出期限と提出先
提出期間は2026年(令和8年)7月1日(水)〜7月10日(金)です。
提出先は事業所の管轄年金事務所です。健康保険組合に加入している事業所は健保組合にも提出が必要になります。提出方法は窓口持参・郵送・e-Gov電子申請・GビズID経由の電子申請のいずれかで対応できます。
対象者の判断──「誰を出すか」が最初の関門
7月1日現在のすべての被保険者が対象です。70歳以上の被用者については「70歳以上被用者算定基礎届」を別途提出します。
一方で、以下に該当する方は届出が不要です。
6月1日以降に資格取得した者(入社したばかりで資格取得時決定の直後であるため)
6月30日以前に退職した者(7月1日時点で在籍していないため)
7月改定の月額変更届(随時改定)を提出する者(随時改定が優先される)
8月・9月改定の随時改定が予定される旨の申出をした者
よくある誤りは「産休・育休中の従業員は対象外」と思い込むケースです。産前産後休業・育児休業中であっても被保険者である限り算定基礎届の対象になります。
支払基礎日数の考え方──雇用形態ごとに異なる
算定に使う月を選ぶ際の基準が「支払基礎日数」です。これが雇用形態によって異なるため、一律に判断すると誤りが生じます。
月給制のスタッフは暦日数(休日を含む)を基準とし、17日以上の月が対象です。ここで言う月給制とは欠勤しても月額賃金が変わらない「完全月給制」を指します。
日給月給制(月額賃金を基本としながら欠勤日数分を控除する方式)のスタッフは、「暦日数から無給欠勤日数を差し引いた日数」が支払基礎日数です。有給休暇の取得日や会社の公休日(日曜・祝日等)は欠勤日数に含まないため差し引きません。たとえば6月(暦30日)に無給欠勤が2日あった場合は30-2=28日となります。対象月の閾値は完全月給制と同じ17日以上です。
日給月給制でよくある誤りは2点あります。ひとつは「月給なので暦日数をそのまま使った」ケースです。欠勤控除がある場合は暦日数から無給欠勤日数を引く必要があります。もうひとつは「日給月給制を日給制と混同して実際の出勤日数で計算した」ケースです。日給制・時給制が出勤日数を使うのに対し、日給月給制は暦日数ベースの控除計算である点が根本的に異なります。
日給制・時給制のスタッフは実際の出勤日数が基準で、同じく17日以上の月を対象とします。
パートスタッフ(一般)は実際の出勤日数が基準で、17日以上の月を優先します。3か月すべてが17日未満の場合は、15日以上の月を対象として計算します。
特定適用事業所(社会保険の適用拡大対象事業所)に勤務する短時間労働者については、11日以上の月が対象になります。17日基準は適用しません。
原則として、3か月のうち支払基礎日数が17日以上の月の報酬平均で標準報酬月額を決定します。17日未満の月は除外して残りの月の平均で決定し、3か月すべて17日未満(月給・日給等)の場合は従前の標準報酬月額をそのまま継続します。
報酬に何を含めるか──実務でよくある誤り
報酬の範囲を誤ると標準報酬月額が実態とかけ離れます。以下の点を必ず確認してください。
通勤手当は非課税限度額に関係なく、実際に支給した全額を報酬に含めます。3か月分を一括支給している場合は月割り計算して各月に配分します。
年4回以上支給される賞与は「報酬」として算定基礎届に含める必要があります。年3回以下の賞与は報酬に含めません。
食事・住宅などの現物支給がある場合は金銭換算して報酬月額に加算します。
時間外手当は「支給した月」で計上します。翌月払いの場合は支給月の報酬として算入することに注意が必要です。
育休・産休取得者への対応──本人への案内を忘れずに
育児休業終了後に報酬が下がった場合、随時改定の2等級要件を満たさなくても申出により標準報酬月額を改定できる特例があります。3歳未満の子を養育していることが要件です。
産前産後休業終了時も同様の特例があります。
いずれも本人の申出が必要な手続きです。会社側から案内しなければ従業員が制度を知らないまま不利な状態が続くことがあります。育休・産休から復帰するスタッフには必ず制度を案内するようにしてください。
随時改定(月額変更届)との関係
随時改定には3つの要件があります。①固定的賃金の変動があること、②変動月から3か月間の平均に対応する標準報酬月額と現行との間に2等級以上の差があること、③3か月間すべての支払基礎日数が17日以上であること、です。
この3要件を満たす場合、随時改定(月額変更届)が算定基礎届より優先されます。算定基礎届の対象から除外されますので、4〜6月中に固定的賃金の変動があったスタッフは随時改定の対象になるかどうかを先に確認してください。
実務担当者のチェックリスト
□ 7月1日時点の被保険者名簿を確認した
□ 除外対象者(6月1日以降の資格取得者・退職者・随時改定対象者)を除いた
□ 産休・育休中のスタッフも対象として含めた
□ 雇用形態ごとに支払基礎日数の判断基準(17日・15日・11日)を使い分けた
□ 日給月給制は「暦日数-無給欠勤日数」で計算した(出勤日数でも暦日数そのままでもない)
□ 通勤手当は実支給額を全額計上した(非課税限度額で止めていない)
□ 年4回以上の賞与を報酬として計上した
□ 時間外手当は支給月に計上した(発生月ではない)
□ 育休・産休復帰予定者に特例改定の案内を行った
□ e-Gov等で電子申請する場合、7月10日までに送信が完了している
まとめ
算定基礎届は手続き自体は毎年のルーティンですが、対象者の判断や報酬の範囲を誤ると社会保険料の過不足が1年間継続します。特に通勤手当の計上漏れや育休中スタッフの除外誤りは現場でよく見受けられます。提出期限の2026年7月10日(金)に向けて、早めの準備をお勧めします。
